拷問を告発した刑事の妻へのインタビュー

日曜日

少し前に読んだ小説『蚕の王』が題材としていた二俣事件。“拷問王”紅林警部らによる自白の強要を告発した警察官のことも描かれていたが、その妻がまだ存命で秦融氏によるインタビューに答えた記事が公開された。秦融氏は「湖東記念病院事件」を取材した中日新聞の取材チームの一員(中日新聞はすでに退社)。ウェッブの連載「供述弱者を知る」や風媒社刊の『冤罪をほどく “供述弱者”とは誰か」にその経緯は詳しい。

news.yahoo.co.jp

今年の1月から『静岡新聞』が「最後の砦 刑事司法と再審」という連載の一環として二俣事件をとりあげています。その第3回でこの警察官、山崎兵八氏の告発とその後の苦難がとりあげられていました。

静岡県警が自らの過ちを認め山崎兵八氏の名誉を回復するのはいつになるのだろうか。

事件に政治的意味を付与しようとしているのは誰?

日曜日

安倍元首相が殺害されてから1年がすぎたということで事件を振り返る記事や番組がいくつか出ています。そのうちNHK総合で放送されている「かんさい熱視線」の「銃撃事件1年 暴力の連鎖を生まないために」に気になるところがありました。

www.nhk.jp

番組のなかほどで歴史学者筒井清忠氏が登場します。朝日平吾が財界人の安田善次郎を殺害した1921年の事件を引き合いに出し、事件に対する社会の反応が同年の原敬暗殺事件を誘発したという見解を述べます。

かんさい熱視線」2023年7月14日放送

かんさい熱視線」2023年7月14日放送

しかし朝日平吾の犯行がいわゆる「公憤」によるものと理解されそれが称賛を産んだのに対し、山上容疑者は犯行動機が「私怨」であることを明確にしています。この違いは無視できないはずです。個人的な動機に基づく犯行でも、犯行に至る経緯によっては被疑者・被告人に同情や共感が向けられることはありますが、それは政治的テロの称揚とは同一視できません。

ところがこの番組の前半では、NHKの奈良放送局が山上容疑者に手紙で送った質問のうち山上被疑者が「反応を示した」質問が「旧統一教会への恨みの他に社会に対する様々な思いがあったのか」というものだったことが紹介されます。

かんさい熱視線」2023年7月14日放送

個人的な怨恨を動機として供述しているのに、わざわざそれ以外の動機がなかったのかを聞き出そうとしているわけです。これに対して山上容疑者は「事件の動機に旧統一教会以外の要因があるとの見方を残念に思っている」と語っていることが明らかにされます。

かんさい熱視線」2023年7月14日放送

山上容疑者が個人的怨恨を明言し政治的テロでないことをはっきりさせようとしているのに、マスメディアの方が事件の政治的な意味を発見しようと躍起になっているわけです。

事件後まもなく明らかになったように、山上容疑者は政治的な発言もたびたび行うネトウヨでしたから、現在の社会について思うところならいろいろあったはずです。もしNHKの誘い水にひかれてなにかしら口にすれば、それが事件の政治的動機として解釈されてしまった危険性はあります。その場合にこそ「暴力の連鎖」が起きかねないのではないでしょうか?

これは刑事被告人の防御権という観点からも問題です。判決が確定する前に被告人が事件の動機について語ることは量刑に影響する可能性があります。メディアの誘いに乗って「政治的動機」と受け取られるようなことを喋ってしまった結果として判決の量刑が重くなったら、誰が責任を取ってくれるのでしょうか? 他方、被告人によってはその点を意識して言動をコントロールしている可能性もあり、山上被疑者の発言にしても鵜呑みにすることはできません。どちらの可能性を考えても、判決が確定するまでは被告人の供述に裁判の証拠以上の意味を与えることには慎重でなければなりません。事件の背景を掘り下げるためにメディアが力を発揮すべきなのは判決確定後であるべきでしょう(もちろん、被告人が無罪を主張している場合はまた別です)。

しかしそのためにはメディアが時間とともに事件への関心を失ってしまわないことが必要です。近年刑事裁判にかかる時間は短くなっているとはいえ、仮に最高裁まで争うとなればやはり何年もの時間がかかるからです。数年間待つことができずに性急に事件の意味を語ろうとするメディアの姿勢こそが「暴力の連鎖」を招く恐れはないのか? 筒井氏からは安田善次郎殺害が原敬暗殺へとつながる過程でのメディア(新聞)の役割について詳しい話を聞くべきだったのではないでしょうか?

期待した私がバカでした

digital.asahi.com

無料部分を読んでついに「土用の丑」について批判的なキャンペーンが行われているのか、とワクワクしながら続きを読みました。

 市によると、返礼品の内訳は、「ウナギ」が68%だったの対し、「牛肉」は7%。「ウナギのかば焼き」が寄付金額を押し上げているという。ふるさと納税サイト「ふるなび」でも、今月9日までの1カ月間のランキングで全国2位となる人気だ。

 一方で、高い人気は悩みの種でもある。毎年「土用の丑」の直前に、ウナギのかば焼きを返礼品とする申し込みが集中。生産と配送が追いつかず、例年、締め切りを早く設定せざるを得ないのだという。担当者は「私たちにとって、まさに『土用の丑の日問題』でした」と語る。

資源保護という視点は欠片もなく、単に注文が殺到するのでさばくのが大変というだけの話でした。勝手にせいや

 

こんどはイイダコが

金曜日

onl.sc魚拓

香川県内海域でのイイダコの漁獲量が20年で100分の1になったという報道です。言われてみれば最近めっきり買って料理する機会が減りました。店頭で見かけること自体が減っていたようです。瀬戸内海を挟んだ兵庫県の海域での漁獲量は? と調べてみると、一昨年の記事ですがやはり近年漁獲量は減少気味とのことです。

水産資源の枯渇という問題については当然ながらまずは漁業者や水産庁の認識が問題視されねばなりませんが、大量消費の現場にいる小売店の担当者もいい加減異常に気づかないものなのでしょうか?

袴田事件再審でまた観測気球?

土曜日

newsdig.tbs.co.jp

今朝の『朝日新聞』(大阪本社)でも一面トップで報じられていたニュースですが、袴田事件の再審公判で検察が有罪立証を行うのではないか、というものです。もっとも東京高裁による再審開始の決定に対しても当初特別抗告を行う方針とのリークがあり、結局特別抗告しなかったという前例があります。市民による批判の声が高まれば有罪主張を諦める可能性はあるでしょう。

本来であれば検察にはぜひ有罪主張をしてもらい、審理の過程で捜査当局による証拠の捏造を明らかにしたうえで真っ白な無罪判決が下ってほしい、と思います。しかし心ゆくまで時間をかけることができる状況ではありませんので、せめて無罪判決を袴田さん姉弟が確実に耳にできるようにしてもらいたいところです。

それにしてもこのNHKの記事はなんということでしょう。

www3.nhk.or.jp

国内政治報道において野党が与党政府を批判するとマスメディアが「野党は反発」と報じて政治を政局に矮小化してしまう問題はたびたび指摘されてきましたが、同じことがここでも繰り返されています(他には日経新聞などが「反発」という語を用いていました)。なぜ「弁護団は批判」と書けないのか。

なお、今日は袴田ひで子さんが来阪して冤罪被害に関する大阪弁護士会主催の集会に出席されてました。残念ながら都合により参加できませんでしたが。

digital.asahi.com

滝山病院関連番組

日曜日

6月27日の「クローズアップ現代」枠で放送された「精神科病院でなにが…追跡・滝山病院事件」を見ました。

www.nhk.jp

すでに今年の4月にETV特集で「ルポ 死亡退院〜精神医療・闇の実態」(こちらも録画して視聴しました)としてとりあげられていた東京・滝沢病院についての続報です。

www.nhk.jp

6月30日にはEテレの「バリバラ」でも「どうする?精神医療〜滝山病院事件から考える」としてとりあげられていました(7月4日に再放送予定ですが、私はNHKプラスで見ました)。

日本の精神科病棟が抱えている問題が指摘されるのはこれが初めてではなく、類型としては目新しいものではありませんが、「クローズアップ現代」にゲストとして出演した都立松沢病院の齋藤正彦名誉院長のコメントで「なるほど」と思った点がありました。病院を監査する立場にある東京都が取材に答え、担当課長が「虐待を立証しなければいけないんです、行政としては」などと発言していた点に関して、「立証できませんでした、って都庁の方は仰ってたけど、警察じゃないんだから立証する必要はないんで。行って圧力をかければいいんですから。入って全ての患者さんに会うというふうにすればですね、それでも十分牽制になると思います」と指摘されたのです。なるほど「立証できない」というのは強制捜査権を持たない行政機関がよく使う弁明ですし私なども「まあそういう側面はあるのだろうな」と少なくとも部分的には納得していたのですが、事後の摘発を確実に行うことだけが人権侵害防止対策ではないわけで、他の機関(齋藤名誉院長も番組で言及していた入管など)についても有益な指摘だなと思った次第です。

 

本題からはズレますが、別の文脈で“NHKで最近素材の使い回しが目立つ”という指摘を見かけたので付言。NHKは(私が把握している範囲で)一連の取材から番組を3本作り、その他ニュース番組でも取材結果を使用したと思われますが、今回のETV特集クローズアップ現代〜バリバラという流れについては好ましい“使い回し”ではないかと思います。総合テレビのゴールデンタイムで関心を集めやすいクローズアップ現代、長い尺をとることができるETV特集、福祉や差別に関心のある視聴者が見る可能性の高いバリバラ、それぞれ異なるクラスタに訴求できるわけですから、短期間に広く市民の関心を集めようとするキャンペーン報道においては有効なやり方だと思いました。

大崎事件第4次再審請求、弁護側が特別抗告

水曜日

さる6月5日、福岡高裁宮崎支部は大崎事件の第4次再審請求即時抗告審で再審開始を認めない決定を下しました。

nordot.app

この決定については弁護側はもちろん、『東京新聞』の社説などが批判しています。

www.tokyo-np.co.jp

弁護団の反応についてはフジテレビ系列のニュースが弁護団の泉武臣弁護士のコメントを交えて要点をまとめて報じています。

www.fnn.jp

そもそもこの事件に関しては過去に計3度裁判所が再審開始の決定を下しており、その度に検察側の抗告でひっくり返ってきた経緯があります。これだけでも“疑わしきは再審請求人の有利に”で再審開始を指示する十分な理由になるはずです。

そして宮崎支部が依拠した“共犯者の自白”に関しては複数のメディアが被害者の次兄とその息子の肉声(40年近く前に録音されたもの)を公開しています。

news.ntv.co.jp

www.nishinippon.co.jp

そして12日、弁護側は最高裁に特別抗告を行いました。

第3次再審請求では地裁と高裁が続けて認めた再審開始を覆した最高裁が今度は正義にかなった判断を下すのでしょうか。