『殺人の追憶』と虚偽自白

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水曜日

ポン・ジュノソン・ガンホの名コンビによる『パラサイト』がオスカー四冠獲得ということで、記念に。

ポン・ジュノ監督の出世作であるこの映画では、取り調べの様子が詳しく描かれる被疑者が三人登場し、そのうち二人が“虚偽自白”をします。

二人目の被疑者が殺害の様子を“自白”するシーン。浜田寿美男流に言えば「犯人になる」つもりにはなったものの殺害に用いた凶器を知らない被疑者に対して、ソン・ガンホ演じるパク刑事が手を胸にあてるしぐさをします。

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これを見た被疑者が「ブラジャー(で絞めた)」と供述するわけです。現在のように取り調べが録画されていれば別ですが、録音していても痕跡の残らない誘導です。

最初の被疑者、知的障害があるクァンホの場合。殺害の様子を突然語り始める被疑者。ソウルから来たソ刑事はパク刑事が筋書きを暗記させたのだと思ってとりあわなかったのですが、捜査が行き詰まり疲れ果てた二人の会話の中で、パク刑事は「暗記」説を否定します。そこで録音テープを聞き直した二人は被疑者が自分の体験ではなく、目撃した光景を語っていたことに気づきます。

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したがってこれは「虚偽自白」ではなく、自白と誤認された目撃証言だったわけです。二人の刑事それぞれの思い込み(「こいつが犯人」「でっちあげも辞さないヘボ刑事」)が招いた誤りがなかなか巧みに描かれていたと思います。