『ほんとうは 僕 殺したんじゃねえもの』
同じ著者による他の事件の鑑定書(をベースとした著作)と比べると、法廷供述の分析が占める位置が大きい。「自白が無実を証明する」が法廷供述にもあてはまるからだ。「冤罪か、否か」以前に被告人の当事者能力が認められ続け裁判が最後まで完遂されたことにショックを受ける。タイトルは被告人質問でたどたどしく「自白」をやり終えた後、検察官から遺族に対する気持ちを訊かれた被告人が突如として口にした否認の言葉に由来しているが、これに負けず劣らず印象的な供述に「やっちゃったの商売」というのがある。弁護人による反対尋問で職業を訊かれての答えだ。被告人にとって裁判がどのようなものであったのかを、これほど明確に示す言葉はあるまい。
この事件、すでに刑期満了で出所となりその後再審請求などは行なわれていないようだ。取調べの録音テープの分析*1などは現在のテクノロジーを使えばより説得的にやり直すことができそうなのだが……。
*1:これについての著者の分析が正しければ、警察は証拠を捏造したことになる。