有罪率がチョビッと下がった


先日、約一年間の裁判員裁判の実績が有罪率100%だったというニュースに言及しましたが、はじめて「一部無罪」の判決が出たそうです。

 被告は別の少年=家裁送致=と共謀して09年2〜3月、東京都日野市などでひったくり3件をし、うち1件で被害者に重傷を負わせ、盗んだクレジットカードを使い瑞穂町の量販店でブレスレット(約9万6000円)を買ったとして起訴された。検察側は被告がひったくりの実行役と主張。被告は捜査段階で自白したが、公判では(1)被害者が重傷を負い強盗致傷罪に問われた1件は実行役でない(2)詐欺は少年が単独で行い共謀していない−−と争った。


 公判では少年や量販店店員が被告は詐欺行為に協力したと証言した。判決は少年の証言を「誠実さに疑問がある」、店員の証言を「必ずしも信用できない」と判断。「被告の犯行とするには合理的な疑いが残る」と指摘した。


 判決は強盗致傷についても、いきなり被害者を突き飛ばすなど他の2件と態様が異なり被告が実行役とする少年の証言には疑問が残ると認定。被告の自白についても「少年をかばうためだったとの供述は不合理でない」とし「『疑わしきは被告の利益に』の原則から、実行役は少年。被告は窃盗の犯意しかなかった」と結論付けた。

強調はいずれも引用者(以下、同じ)。他にも捜査段階での供述の信用性(ないし任意性)が問題になっている(なった)裁判が報じられています。

 強盗致傷罪に問われた住所不定、無職、久保松幸被告(56)に対する裁判員裁判の公判が9日、東京地裁(大善文男裁判長)であり、実行役として有罪が確定した男が「自分は単独犯」と証言、被告から指示を受けたことを認めた捜査段階や自らの公判での供述を否定した。検察側は取り調べの録画映像を上映して「今日の証言は信用できない」と反論。久保被告は一貫して指示を否認しており、男の供述は被告の有罪を立証するほぼ唯一の証拠で、裁判員は難しい判断を迫られそうだ。

「実行役として有罪が確定した男」の裁判では、犯行は久保被告に「指示された」ものと事実認定され量刑もその事実認定を前提に決められているはずですから、仮に「単独犯」だというのが本当だとすれば、無理矢理共犯者についての自白をさせたためにみすみす軽い量刑で終わらせてしまったという可能性も否定できません。まあ一般論としては自分の刑が確定したあとで共犯者をかばっている、という可能性も否定できませんが、八海事件のように共犯者についての供述を無理強いしたため起きた冤罪事件も現に存在しています。

 青木被告は捜査の段階で殺意を認める調書に署名したが、公判では殺意を否認していた。


 判決は調書について「捜査官の誘導に応じて作成された疑いがぬぐえず、信用できない」と殺意を認めず、量刑も求刑を大きく下回った。


 検察側は「被告を誘導した事実はない」としているが、公判での被告の供述や、どんぶりで殴るなどの事件の状況を踏まえて、控訴して争うのは困難と判断したとみられる。

なるほど凶器が「どんぶり」では、自白がない限り殺意を認定するのは難しそうです。「被告を誘導した事実はない」などと主張してもなにしろ密室での出来事ですからね。捜査段階での供述調書に対し安易に任意性、信用性を認めない判決が続けば、取調べの可視化に対する警察・検察の態度も自ずと変わってくるかもしれません。

 上村被告の供述調書をめぐっては、横田裁判長は5月末の村木元局長の公判で「意思に反した調書が作られた」などとして証拠として採用しない決定を出した。検察側は上村被告の公判でもこれらの調書を証拠採用するよう求めており、横田裁判長は取り調べを担当した検事2人の証人尋問などを経て調書の任意性を検討し、採否を決める。結審は11月25日の予定。

同じ裁判長とはいえそれぞれの法廷は独立しているので、検察の立証次第では証拠採用が認められる可能性もゼロではありませんが、元局長の公判と代わり映えのしない立証しかできなければ却下される可能性は高いでしょう。
組織が絡む犯罪では犯罪事実の立証が当事者や関係者の供述に依存せざるを得ない部分があるのはやむを得ないところで、贈収賄事件などでは「捜査段階で自白、公判で否認」というのはよくあるはなし。一般論としては「会社に迷惑をかけないために」、あるいは「政治家に迷惑をかけないために」という理由で公判では否認するケースがある、ということは否定できないでしょう。捜査段階での自白調書を安易に証拠としない傾向が定着するとすればそれ自体は望ましいことですが、組織犯罪の捜査手法をどうするか……についても議論する必要が生じてきそうです。