『証言台の子どもたち』
(本書で問題とされているのは「自白」ではなく目撃証言ですが、冤罪事件や供述をめぐる問題を扱うエントリに「自白の研究」タグを用いています。)
一度も有罪判決が下らなかったにもかかわらず無罪の確定までに20年以上かかった甲山事件の裁判において、検察側主張の事実上唯一のよりどころであった園児たちの供述(調書および公判証言)の分析。著者が特別弁護人として一審の弁護側最終弁論において提出した意見書がベースになっている。
本書の第II部に収められた「供述分析」は、園児たちの「目撃」証言が「もはや虚偽の可能性があるとか、その可能性が高いといった程度のもの」ではなく「虚偽であることが明白に立証されたとまで断言してもよい」と著者が「プロローグ」で自負している(2ページ)通りの説得力を持っている。
とすれば、本書は同時に、国家権力が時としてどれほど出鱈目なことを強引に押し通そうとするか、についての分析でもあるということになる。この観点からは、意見書の核である「供述分析」が収められた第II部よりも「虚偽の根〔論告批判〕」と題された第III部がむしろ興味深い。検察側の強引な論理が誤った「精神薄弱」観に立脚していることが暴かれているからである(もちろんこれは、検察だけが陥るような誤りではないが)。