NNNドキュメント'10「検察…もう一つの疑惑」
- 11月21日 25:00〜 NNNドキュメント'10 「検察…もう一つの疑惑〜封印された真犯人〜」
今年3月、菅家さんの無罪が確定された足利事件。DNA再鑑定により菅家さんの無実は証明され、17年ぶりに晴れて自由の身になった。日本テレビの「ACTION」では、これまで事件の冤罪の可能性を報じ続けてきた。一連のキャンペーン放送は民間放送連盟賞「放送と公共性」最優秀を受賞。だが、事件にはまだいくつもの謎が残されている。事件の前後、北関東で続いた幼女誘拐殺人事件との関連はどうなのか?不安を覚える市民も多いが、時効となった事件もあり、真犯人への捜査はなされていない。大事な家族を失った遺族、罪をなすりつけられた菅家さんも納得できない現実。足利事件の深層に迫る。
(http://www.ntv.co.jp/document/)
昨晩放映された上記のNNNドキュメント'10では、足利事件の被害者遺族に被害者のシャツが返却されていないという件が問題にされていた。遺族による再捜査の要望は時効を盾に退けながら、シャツを返却しようとしないのはなぜか? 番組では、同じ鑑定技術を用いて有罪の証拠となった鑑定が行なわれた飯塚事件*1にも言及しつつ、シャツに付着した真犯人の体液を独自に再鑑定することにより当時の鑑定の誤りが明白になることを恐れているのではないか、という推測を示している。
また、この問題が参議院の行政監視委員会でとりあげられたことも番組は紹介している。第176回国会行政監視委員会、11月11日のことだ。質問者は民主党の風間直樹議員。出典はいずれもこちら。
○風間直樹君 (略)
そこで、月刊の文芸春秋の十月号、二百六十七ページにございますが、ここにこの足利事件の殺害された被害者である松田真実ちゃんのお母さんのインタビューが出ております。一部読み上げますが、この菅家さんの冤罪であるということが明らかになった後に、警察庁とそれから栃木県警からこのお母さんに対して連絡があったと。その連絡の内容というのは、この足利事件、公訴時効を過ぎたのでという連絡があったと。そこでお母さんが、ならばその殺されたお嬢さんのシャツを返してほしいと、この返却を希望されたところ、その後、裁判所ではなく検察から回答がまた来て、そして、赤いスカートなどの遺品はお返ししますが、シャツだけはこのままお預かりをさせてもらいたいと、こう言われたというんですね。その際に、国の施設でシャツを冷凍保存したいというふうに言われたそうであります。
そこで副大臣、お尋ねなんですが、本事件、時効になったと私も理解をしているんですけれども、ならばなぜこの証拠品である被害者のシャツが遺族に返還されないんでしょうか。この点お尋ねします。
○副大臣(小川敏夫君) これも具体的な個別の事件でございますので、なぜといってこの具体的な理由はここでは答弁を差し控えたいと思いますが、やはりそうした返還しなかったことについての事情があってのことだとは思います。
○風間直樹君 (略)
続きまして、このシャツに残された真犯人のDNA、その鑑定についてでありますが、この九〇年の足利事件が起きた当時取られていた鑑定方法というのはMCT一一八法という手法だそうであります。当時としてはこれが最新であり、これしかなかったというふうに聞いております。
この方法、具体的にどういうものかなと思って調べてみましたら、ゲルと呼ばれる寒天のようなものの中に現れるバンドの位置を目視で読み取るものだと。鑑定人の技術により差異が出る可能性もある上、そのバンドを読み取るためのマーカー、一種の物差しですが、これにも問題があるとの指摘が当時出ていたと。その後、急遽マーカーを変更するなどの状況を見せながら、九〇年代半ばごろにはこのMCT一一八法は次第に使われなくなっていったというふうに読みました。
そこでお尋ねをいたしますが、これまで犯罪捜査においてMCT一一八法でDNA鑑定が行われた件数は何件でしょうか。また、そのうち有罪立証に使われたのは何件でしょうか。御答弁をお願いします。
○副大臣(小川敏夫君) 昨年、菅家さんの事件の抗告審で、このMCT一一八法による鑑定の信頼性が揺らいだということがございましたので、これにつきまして検察庁の方で、検察当局の方で、同じ鑑定による試料が証拠として使われた事件を確認する作業を行いましたところ、八人の有罪確定事件について、足利事件、このMCT一一八法による鑑定の結果が判決理由の事実認定の中で述べられていたというケースが明らかになりました。
○国務大臣(岡崎トミ子君) 今の有罪の数でございましたけれども、警察庁の科学警察研究所と都道府県警察の科学捜査研究所におきましては、平成元年から平成十五年までの間に、足利事件で用いたMCT一一八型検査法でDNA型鑑定を実施した事件につきまして、保管されている資料に基づき調査した結果、百四十一件であったものと承知しております。つまり、これは東京での警察庁の科学警察研究所で百二十一件、そして、これ地方ですね、県の警察科学捜査研究所では二十件ということで、百四十一件でございます。
○風間直樹君 これ、平成三年十一月当時の科警研の鑑定によりますと、MCT一一八法による鑑定でありますが、犯人のDNAが一八―三〇型というふうに出ているんです。今回の再鑑定におきまして、弁護側の筑波大本田教授による鑑定では、実は、当時科警研の鑑定で出た一八―三〇という型は出なかったんですね。その結果、どういう型が出たかというと、一八―二四という型が出たんです。このことから、当時のこのMCT一一八法という鑑定は、精度が低いのではなくて完全な誤りだということが証明されたというのが共通の認識としていいんだろうと私は考えております。
しかし、検察、これは非常に不思議な行動、態度を取っているんですが、本田教授によるこの弁護側の鑑定を否定する意見書を示しています。その中で、この本田教授の鑑定には方法等に疑問があり、全体的に信用性に欠けるというふうに記載をしています。
私は、この意見書の意図というのは、もし当時の鑑定、平成三年の十一月の鑑定の誤りが証明されれば、同じ方法で行われ、下された他の裁判の結果もすべてやり直す必要が出てくるからではないかなと、こう思います。文芸春秋の記事を連載している日テレの清水記者もそのように指摘をされています。
大臣、副大臣がこの私の指摘に対してどんな思いを抱かれるんだろうかなというふうに思うんですが、今回の菅家さんの再鑑定に際して、この再鑑定前の検察官の意見書においても、申立人のMCT一一八部位のDNA型鑑定だけを行う鑑定は無意味であるばかりか、有害であるとすら言えるので、実施することには反対であるというふうに書かれております。これは、つまり、弁護側の本田教授によるMCT一一八法での鑑定を徹底して牽制していると。なぜ牽制するかというと、恐らく当時のMCT一一八法の信頼を担保したいがために、この方法による再鑑定で誤りが明らかになることを恐れてこうした記述になったんだろうと私は推測をしております。
実際に、検察側のこの鑑定人である大阪医科大の鈴木教授、この方は、再審法廷におきまして、自分も検察側の鑑定人として当時のMCT一一八法によってもう一回再鑑定をしたという証言をされています。しかし、実際のところ、この鈴木教授の鑑定書にはMCT一一八法による結果は記載をされておりません。
さて、ここまで、細かい部分に立ち入りながら、るる質疑を進めてまいりました。ここから、私の岡崎大臣と小川副大臣への真の要請でございます。
これほど多用されて、同時に複数の事件において有罪の決め手とされてきた、そして、この手法を根拠に死刑判決まで下っている、これは飯塚事件のことですが、このMCT一一八法でありますけれども、菅家さんのDNAのSTR法、このMCT法ではなくて、その後、最新鋭とされ再鑑定に用いられたSTR法によるこの再鑑定により、MCT一一八が完全な誤りだったことが証明されたわけであります。
ならば、今回、菅家さんが無実であることを証明したこのSTR法によって、あるいはMCTを最新のコンピューター解析を併用して用いていただいても結構ですが、真実ちゃんが着ていたシャツの再鑑定を行って、そして真犯人の正確なDNAを当局自身が調査して、先ほど岡崎大臣が答弁してくださいましたように、真犯人の検挙に向けた捜査を開始することが私は必要であり、避けられないと思っています。そのためにもDNAの調査を当局に求めたいと思いますが、岡崎大臣、小川副大臣より御答弁をお願いします。
強調は引用者。風間議員の質問は(足利事件の)「真犯人の検挙に向けた捜査」を促すことに重点を置いているようだが、「MCT一一八法」の信頼性が飯塚事件を含む他の事件の捜査、判決にも影響しうる論点であることは明確にされている。
その他。『文藝春秋』が今年の10月号でとりあげた「ルパン三世に似た男」という目撃証言。この目撃者が番組に登場するのだが、結構な年配の男性だったのは予想外だった。
また、被害者の母親も取材に応じておられるのだが、畑仕事をする彼女の側に寄り添う猫は被害者となった娘のために、事件のほんの一週間ほど前に飼いはじめたのだという。20年間、どのような思いで遺族はこの猫を飼ってきたのだろうか……。
*1:この事件では被疑者=被告人=死刑囚の自白はないのだが、刑事裁判、特に冤罪の可能性が指摘される事件に言及したエントリを同じカテゴリにおさめたいため、「自白の研究」カテゴリを用いている。