裁判官が控訴をすすめた件


横浜のマージャン店経営者ら殺害事件の判決公判で裁判長が「重大な結論ですから、裁判所としては控訴することを勧めます」と述べたことが話題になっている。報道ではおおむね「異例」とされている一方、小倉秀夫さんは「裁判所は、裁判員制度前から、死刑判決においては説諭で上訴を勧めていたような記憶が」とつぶやいておられて、どちらが正しいのか私にはわからないが(またそもそも、どの程度の前例があれば「異例」でなくなるのかの評価も人によって一致しないだろうが)、私が見つけることができた前例は「ほとんど審理が終わった段階で裁判長を引き継いだ」裁判官が「困り果てた末、控訴する気のない弁護人」に「控訴してはどうか」と勧めた、というもの。判決公判で述べたのか、法廷外で声をかけたのかはこの記事でははっきりしない。
今回のケースについて「控訴審の可能性を示すことで裁判員の精神的負担を和らげる配慮だったとすれば理解もできる」といった論評がみられるが、もしそんな理由での発言であったとすると極めて欺瞞的だと評さざるを得ない。処刑の現場を担当する刑務官や受刑者の「精神的負担」のことなんてろくに考えてこなかった社会が裁判員の「精神的負担」についてはやたらと気にするというのも、なんだかな。
他方、それほど熱心に追ったわけではない報道からの、取り立てて強い根拠があるわけではない推測だが、“被告人はどうも弁護の限りを尽くす選択をしなかったのではないか?”と裁判長が考えて“控訴審では自分に有利な材料をとことん出してみたら?”と暗に言わんとしていたのだとすると、そちらの方が私には「理解できる」解釈になる*1。光市の事件の裁判などがよい例だが、弁護の限りを尽くすこと自体が悪い情状であるとされてしまう雰囲気の中では、むしろなにも主張しないことを選ぶ被告人がいてもおかしくないだろうから。

*1:あるいは、もう一人の容疑者が国際手配中なので、その供述次第では量刑判断が変わってくる可能性を考えたとか?