「イノセンス・プロジェクト」


月に2回ほど朝日新聞の朝刊に挟み込まれている "The Asahi Shimbun Globe" なるもの。10月5日分の「著者の窓辺」というコーナーに『無実を探せ! イノセンス・プロジェクト DNA鑑定で冤罪を晴らした人々』(現代人文社)の著者として、バリー・シェック氏(弁護士・ロースクール教授、「イノセンス・プロジェクト」共同代表)が登場している。
近年アメリカではDNA鑑定により死刑事件を含む多数の冤罪が明らかにされているという件*1については日本でも報道されているが、その立役者とも言えるのがシェック氏らの「イノセンス・プロジェクト」。いずれオンライン版にも転載されるようだが、インタビューのうち興味深かった点を紹介しておきたい。
まず足利事件アメリカで発生する冤罪ともいくつかの共通点をもっているようだ、という点。「事件が大きければ、なんとかして犯人を挙げなければという圧力が高まり、主観が働いてしまいます」。そして「これまで鑑定で科学的と思われていた証拠も、実はきちんとした根拠が定まっていなかった」のだ、と。シェック氏が紹介しているのは弾丸の線条痕鑑定や指紋の鑑定に入り込む主観の問題で、DNA鑑定についてはより客観的な科学的証拠として評価されている。もちろん足利事件の当時とはDNA鑑定に用いられる技術が大きく違うので、新しい技術による鑑定はそれだけ信頼性も高いということは言えるのだろうし、また「無実」の証拠として主張している鑑定についてその客観性を強調したくなる立場でもあろう。しかし過度にDNA鑑定の科学性を強調するとそれはそれで新たな冤罪につながるおそれもあるだろう。説得力が極めて強い証拠だけに、その有効性と同時に限界をも周知することが必要だろう。
次に、活動が成果を上げるにつれ捜査当局の対応も変わって来たという点が興味深い。DNA鑑定で242人の冤罪を晴らす一方、105人の真犯人が逮捕された、とのこと。「検察側も弁護側も裁判所も、無実の人が刑務所に入れば、本当の犯人は野に放たれたままになり、さらなる犯行を繰り返す恐れがあるという点では一致している」からだ、と。これは日本でもまったく同じであるはずだ。テキサス州ダラスでは保存されていた証拠をもとに検察が積極的に過去の捜査を検証して多くの冤罪を暴き、その結果「間違いもきちんと認めることで、地域での評価が高まりました」とも指摘されている。まあこの点は地方検事が選挙で選ばれるアメリカと官僚である日本とで状況が違うので、なかなか日本の検察にとってのインセンティヴにはなりにくいかもしれないが。

(…)我々の活動は、日増しに捜査側の協力を得られるようになりました。冤罪を晴らす活動は、犯罪に甘いという批判を受けがちですが、社会の安全につながると理解を得られるようになりました。

こういう理解が日本でも定着するとよいのだが。
また虚偽自白の問題にも触れ、取調べのビデオ録画が「最良の手段」である、と。何をチェックするのかと言えば、「犯人か捜査関係者しか知り得ない内容を、尋問側が容疑者側にほのめかしていないか」どうか。つまり「秘密の暴露」と見えるものが本当に「秘密の暴露」なのか、それとも誘導によるものなのか、ということだ。ちなみにイリノイ州で取調べの録画を義務づける法律ができた際に尽力した一人が、当時州議会議員だったオバマだったとのこと。

*1:インタビューによれば現在までに242人に達したとのこと。