『「自白」はつくられる』

ミネルヴァ書房のPR誌『究』での連載がベースとなったもの。著者がこれまで関わった事件・裁判を振り返りつつ「供述分析」についての著者の最新の知見が語られている。最近「虚偽自白」に関心を持ったという方には、最初の一冊としてよいかもしれない。
個人的に興味深かった点を2つほどご紹介。
まず、再審(請求)においては、証拠が脆弱な事件ほど冤罪を晴らすのが難しい、という指摘(136ページ〜、204ページ〜)。足利事件の場合はDNA鑑定が決定的な証拠だと確定判決で評価されており、だからこそ鑑定の誤りを明らかにすることで再審無罪を勝ち取ることができた。しかし曖昧な証拠が多数積み上げられているケース(名張毒ぶどう酒事件など)では、一つの証拠に疑義を突きつけてもそれが決定的な反証とはみなされない、というのだ。原判決の事実認定が危うければ危ういほどかえって覆しにくい、というのはなんとも皮肉なことだ。
もう一つは“真犯人の虚偽自白”についての議論(第7章)。量刑に影響を与える犯行動機等の供述が、捜査当局の「犯行の事実をそのありのまま、できるだけ正確に聴取しようとするというより、むしろこの許されざる犯罪を厳しく罰するべく、犯行の事実をできるかぎり重く取ろうとする姿勢」によって歪められてしまう恐れが指摘されている。