全部チェックする必要なんてないでしょ?

http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/apesnotmonkeys/20090919/p1

nisshiey_s1 取り調べの可視化はやるべきだけど、全面録音・録画は疑問。そんなんチェックする暇あるの?むしろ、代用監獄の方が問題じゃ。 2009/09/20

これはもう小倉秀夫さんが反論していることですが、なんで“全部チェックする”なんて発想になるの?

まず捜査段階での自白の任意性が争われていない事件では記録をチェックする必要が生じません(もちろん「争いがない」というのは事後に明らかになることなので取り調べを録画する必要がなくなるわけじゃない)。他方任意性を争う場合、知的能力に問題のない被告人であれば自身が自白を強要されるに至る過程で重要だったポイント(脅されたとか利益誘導されたといった)はおおむね記憶しているはずですから、「取り調べが始まってから○日くらいの、午前中の取り調べをチェックして下さい」と言えばよいわけです。被暗示性が強いとか知的な障害を抱えている被告人の場合には(少なくとも自供に至るまでの部分について)かなり丁寧にチェックする必要も生じる可能性がありますが、これは「それだけのことをする価値はある」と言わざるを得ない。さらに全面録音・録画はそもそも取り調べ段階での無理な尋問を抑止する効果も期待されているわけで、これがうまく機能すれば裁判で自白の任意性を争うケース自体が少なくなる(現在でもそうしたケースはごく一部ですが)わけです。ごくごくごくごく一部のケースで取り調べのほぼ全過程をチェックする必要が生じるかもしれない、というのはおよそ「全面録音・録画」に反対する理由にはなりません。足利事件でDNA鑑定が過大評価されたことを考えても「録画」がもつ説得力が強くなるであろうことは想定できるので、部分的な録音・録画(しかもどこを記録するかは捜査側が決めることができるような)ならむしろしない方がマシです。
もちろん、取り調べの可視化に加えて代用監獄も廃止するというなら被疑者の権利擁護策としては文句なしでしょう。しかし全面録音・録画による可視化か代用監獄の廃止のどちらかだけを選べというのなら、私は前者を選ぶべきだと思います。後者の実質的な効果は結局拘置所を管轄する法務省が捜査機関に対してどれだけ中立の立場を貫けるかに依存しますから。