さらっと恐ろしいことが……

-Yahoo!ニュース 2019年12月2日 「刑法の性犯罪に関する規定、さらなる見直しが必要か

強制性交等罪など性犯罪に関する構成要件をさらに見直すべきかどうかについては今回は触れません。ここでとりあげたいのは見直し慎重派の宮田桂子弁護士の発言中にあった一節です。

2017年の刑法改正にあたり、私は法制審議会刑事法部会で委員を務めましたが、この改正自体、必要なかったと考えています。強姦罪から強制性交等罪へ変わったとき、法定刑の下限が懲役3年から5年に引き上げられました(準強制性交等罪も同じ)。これによって、判決に執行猶予が付けるのが困難になりました。

刑の下限が5年だと、酌量できる事情がないと執行猶予がつけられません。酌量の余地のある殺人はありますが、性犯罪ではまず考えられません。裁判官が無罪判決を出すのは勇気がいります。以前なら執行猶予でお茶を濁せました。改正後の無罪判決には、法定刑の下限引き上げが影響しているとも考えられます。

(下線は引用者)

 私はかねがね、日本社会では自由の価値が過小評価されているがゆえに自由刑の重みも過小評価されていると考えているので、性犯罪についても(有罪の場合の)厳罰化よりはより幅広く刑事事件化できるようにすることをまず考えるべきだと思います。その限りで法定刑の下限を引き上げたことへの異論には耳を傾けるべきだとは思います。

しかし「以前なら執行猶予でお茶を濁せました」というのはそれとはまったく別の話です。ここで宮田弁護士が示唆しているのは、有罪の確信を持てない(=合理的な疑いを越えた有罪の立証があったとは確信できない)裁判官が、他方で無罪判決を出す勇気も持てないために、執行猶予付き有罪判決を出すケースがあった、ということです。

いうまでもなく執行猶予という制度は、裁判官の怯懦に対するバックアップではありません。本人は三方丸く収めたつもりかもしれませんが、実刑判決を望む被害者にとっても、無罪判決を望む被告人にとっても、そして正義にとっても不本意な結果であるはずです。執行猶予が「推定有罪」裁判の救済策として機能してしまうような事態は、性犯罪に関する刑法の規定をめぐる議論とはまた別の水準で、議論の対象とされねばならないはずです。