「ブレイブ 勇敢なる者“えん罪弁護士”完全版」(追記あり)


もう一ヶ月前のことになってしまいましたが、2016年にNHK総合で放送された「ブレイブ 勇敢なる者「えん罪弁護士」の完全版(放送時間が50分から100分へ)がBS1で放送されておりました。
地上波版を見た際の記事と今村氏の著書に関する記事は以下のとおりです。
http://d.hatena.ne.jp/apesnotmonkeys/20161127/p1
http://d.hatena.ne.jp/apesnotmonkeys/20130204/p1


以下追記
この「完全版」の方で詳細に取り上げられていたのが、2014年の7月に東京高裁で逆転無罪判決が出た、バス車内での痴漢事件。一審では、被害者が“左手でつり革を持っていた犯人が右手で触った”と供述していたところ、弁護側が右手で痴漢行為を行うことが不可能であることを立証すると、“左手で触ることが不可能とは言えない”というロジックで有罪判決を下していた事例。
……と紹介すると思い当たられた方もおられるかもしれないが、これは今年の3月にNHKEテレの「ろんぶ〜ん」という番組で放送され多くの批判を浴びた「ロンブー淳と論文を楽しむ!「痴漢」のおもしろすぎる論文」でとりあげられた研究のきっかけになった事件だ(番組への批判については例えばこちらなどを参照)。今回の「完全版」にも、「ろんぶ〜ん」に出演していた認知心理学者の厳島行雄氏が登場する。管見の限りでは、「ろんぶ〜ん」批判のほとんどは厳島氏の研究にではなく番組のとりあげ方に向けられていたようだが。
自白していれば執行猶予がついたり、略式起訴ですんだり、さらに被害者と示談が成立すれば起訴猶予になることが多い……といった事件における“隠れ冤罪”はかなり多い、というのは冤罪事件に関心を持つ法律家やジャーナリストがしばしば指摘することではある。これを踏まえてコメントしておきたいのは、仮に痴漢事件で冤罪が少なからずあるとすれば、その背景の一つは痴漢がこの社会において“軽微な犯罪”だとされていることにあるのではないか、ということだ。警察も“軽微な犯罪”だと思うからこそ客観的な証拠についてはおざなりな捜査ですませて自白をとって片付けようとするし、検察や裁判所の判断も“軽微な犯罪”だという前提のものになるから「執行猶予」「略式起訴」「起訴猶予」といった利益が虚偽自白の動機になりうるわけだ。ミソジニー混じりで“痴漢冤罪”をとりあげるのは、冤罪防止にはまったく役立たないだろう。