自白を疑う判事もいた東住吉事件

 昨年八月に再審無罪となった大阪市東住吉区の小六女児死亡火災で、母親青木恵子さん(53)の無期懲役がいったん確定した二〇〇六年の最高裁決定を巡り、直前まで裁判長だった故滝井繁男氏(一五年二月に七十八歳で死去)が「全ての証拠によっても犯罪の証明は不十分」として一、二審の有罪判決を破棄するべきだとの意見を在職中に書き残していたことが分かった。
 共同通信は親しい関係者に引き継がれた書面を入手した。「滝井裁判官の意見」と題した二十四ページの構成。最高裁の裁判官は判決や決定に個々の意見を明記できるが、滝井氏は審理終結前の〇六年十月に定年退官し、公にはならなかった。冤罪事件を巡って最高裁内で有罪に異論があったことを克明に記した内容だ。
 滝井氏は弁護士出身で、〇二〜〇六年に最高裁判事を務めた。関係者によると、書かれたのは退官直前の〇六年秋ごろ。文中に「当審(現在の審理)は」などと在職中に記載したことがうかがえる用語を使用。滝井氏は当時、一、二審の事実認定に疑問を持ちながら、最高裁内部で受け入れられず苦悩していたという。
(後略)

後略部分に意見の内容が紹介されていますが、再審開始の決め手となった再現実験による知見がまだ得られていない時期に書かれたにもかかわらず、再審開始決定〜無罪確定の時期にメディアが伝えた有罪判決への疑問点をきっちり先取りしています。もし最高裁内に耳を傾ける別の判事がいれば、非公式にでも伝えることができたのではないか……と思うと、なおさら失われた年月の重さを痛感します。