和歌山県の差別的主張は斥けられるか

  • msn産経ニュースwest 2013.7.22 「「原告女性は下ネタ許容性高い」性生活聴取PTSD訴訟で言い放った被告・和歌山県警の“見識”」

 「下ネタ話への許容性も高いだろうし、男に対する見識もそれなりのものがあるだろう」


 “炎上”必至の弁明だった。和歌山県警の参考人聴取で性生活をしつこく聴かれ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したという大阪府内の30代女性が大阪地裁に起こした損害賠償請求訴訟で、被告の県側が驚くような内容の答弁書を陳述した。女性がかつて飲食業をしていた事実を引き合いに「(この女性は)下ネタ話への許容性が高い」というものだ。女性側は「甚だしい女性蔑視(べっし)と職業差別」と激しく憤り、専門家も「聴取の内容が社会通念に照らして違法かどうかが争われるべきで、女性の職業は関係ない」と批判している。
(後略)

厚顔無恥なデマ記事を量産する産經新聞ですが、社会面にはちょくちょくまともな問題意識と取材によって書かれた記事が掲載されることがあります。この記事も、ちょっと覗き見趣味に走った気配を感じないではないものの、原告側の主張と専門家の批判的なコメントを中心にまとめられており、被告和歌山県の主張の問題点を明らかにしています。
被告となった以上なんらかの主張は展開せざるを得ず、損害賠償するとすれば公金から支出される以上片八百長のような真似はできない*1という事情はあるにしても、「女性の人権がしっかりと守られる世紀にしていきたい、これは不動の信念で前に進んでいきたいと思っています」という安倍首相の発言(2013年2月7日、衆議院予算委員会)を踏みにじる、反動的な主張と言わざるを得ません。こんなものを裁判所が認めたとすれば、ホテトル嬢の被告人に対して「被告人の性的自由及び身体の自由に対する侵害の程度については、これを一般の婦女子に対する場合と同列に論じることはできず、相当に滅殺して考慮せざるをえない」と言い放った東京高裁判決に肩を並べる差別的判決ということになるでしょう。
ところで、「慰安婦」問題否認派の発想の根底には「売春婦」に対する差別的認識があることはこれまでも繰り返し述べてきたことですが、これは今回和歌山県が露呈した「飲食業」の女性に対する差別的認識の延長線(しかも大した長さではない)上にあるものです。この記事を書いた産経の記者さんが、自社の「慰安婦」問題報道をどのように感じているのか、機会に恵まれたら聞いてみたいものです。

*1:県警の非が明らかならばさっさと原告の要求通りの条件で和解せよ、というのも一理のあることだとは思います。ただ、どのような場合でさっさと負けを認めるかの判断を行政に委ねることの弊害というのもまたありそうですから、ここでは被告たる県が請求棄却を主張すること自体は批判の対象としないことにします。