NNNドキュメント「届かない死者の声」を見て


9月25日深夜(26日)に放送されたNNNドキュメント'11、「届かない死者の声 解剖率一割の現実」を見た。

日本では毎年約100万人が死亡している。ところが、その中で明らかに病死以外の「異状死」とみられる15万人以上の遺体が、正確な死因がわからないまま処理されている。このことが“事故や事件の見逃し”という事態を招き、防げたはずの更なる犠牲者を生み出す「負の連鎖」を生み出している。齋藤愼也さん(当時29)は23年前、北海道北見市のアパートで死亡した。解剖されずに下された死因は「溺死」。しかし、父・武雄さんはこれを信じてはいない。死の直前、愼也さんが周囲にガス湯わかし器の不調を聞いていたことと、5か月後、同じ部屋で男女2人が一酸化炭素中毒で死亡したからだ。武雄さんは今も心の整理がつかず苦しんでいる。死因究明制度が抱える問題を検証し、目指すべき道を探る。
(http://www.ntv.co.jp/document/back/201109.html)

この問題については新聞・雑誌などでも時折とりあげられているのを見かけるが、殺人事件の報道ぶりとは比べものになるまい。もちろん、“隠れた殺人事件が数千件も!?”のような煽られ方をされても困る。とはいえ、すでに露見して法の裁きが下されることが予想できるような事件よりも、死因を特定されないまま闇に埋もれてしまう事件・事故の方が本来であれば追究に値するはずなのだが……。
番組によれば、国は解剖率をひとまず倍の2割にする計画を立てているという。ところがすでに解剖率が2割を超えている都道府県が存在していて、番組では兵庫県の事例が紹介されている。兵庫県では兵庫県監察医務室に勤務する監察医が行政解剖を担当していて、司法解剖行政解剖をあわせれば解剖率が2割を超える、というわけ。ポイントは、研究・教育業務の合間に解剖を受け入れている大学医学部の解剖医とは違って、監察医は解剖に専念できるという点だという。とすれば解剖率を引き上げるために必要な経費はそう莫大なものではないはずだ。カネの問題ではなく、日本という国家が“遺族の心情さえ無視すれば直視せずにすむ問題”を回避してきたということなのだろう。