袴田事件弁護団、元郵便局員の証人尋問を申請

 清水市(現静岡市清水区)で1966年、一家4人が殺害された「袴田事件」をめぐり、当時の郵政監察官が捜査報告書の中で、袴田巌死刑囚(74)の知人女性の郵便物に関して事情を聴いたとしていた元郵便局員の男性が「監察官から話を聞かれたことはない」と同死刑囚の弁護団に証言していることが分かった。
 弁護団静岡地裁静岡地検が第二次再審請求審について話し合った25日の三者協議で、弁護団はこの男性を含め3人の証人尋問を同地裁に申請した。協議終了後、記者会見で明らかにした。
 弁護団によると、昨年9月に静岡地検が証拠開示した郵政監察官(当時)の捜査報告書には、監察官が清水郵便局の男性局員から聴取したが、袴田死刑囚の知人女性が郵便物を送った経緯は分からない、などとする内容の記述があったという。
 報告書を検証するため、弁護団が今は郵便局を退職している男性と面会したところ、監察官から事情を聴かれたことはないと説明したという。郵便物は、袴田死刑囚が被害者宅から奪った現金の一部を受け取った女性が、怖くなって封筒に入れ警察に送ったとされる。だが清水郵便局は、差出人不明で切手もない「事故郵便物」として処理し、警察には届いていなかった。
(後略)

袴田被疑者(当時)が知人女性に「5万円」を預けたという供述を始めたのは1961年9月6日で、自白調書のうちただ一通証拠採用された9月9日付けの検事調書でも同様の供述がなされています。その後、9月13日に清水郵便局の事故郵便のなかから清水警察署宛の、現金「5万700円」入りの封書が発見された。知人女性は公判では現金を預かり清水警察署宛に送ったことを否定する証言を行ったが、判決は差出人がその女性であるとする筆跡鑑定、また届けられた金の金種(後述)が盗まれた(現場からなくなっていた)金のそれと符合することなどを理由として、検察側の主張を支持した。
これまで何度も紹介してきた浜田寿美男の『自白が無実を証明する』(北大路書房)では、この清水警察署宛に送られた現金「5万700円」が「無知の暴露」分析の題材の一つとされている(第2部第2章第2節。同第1節で扱われている「甚吉袋」をめぐる「無知の暴露」分析についてはこちらを参照)。要点だけを以下で紹介する。まず、送られてきた封書の現金は1万円札3枚、5千円札2枚、千円札10枚、5百円札1枚、百円札2枚という金種構成であったが、供述調書では一貫して千円札の枚数を29枚ないしそれに近い枚数と供述しており、送られてきた現金と供述の金種が一致しないこと(判決で唯一採用された供述調書では金種については触れられていない)。また、封書が発見される以前の供述では預けた金は「5万円」とされていた。“百円札を抜き千円札を足してきっちり5万円にした”という趣旨の供述調書があるくらいで、「5万円」きっちりであることが強調されている。封書の発見後は「いちいちていねいに拡げてみなかったので……百円札が裏側にはさまっておれば百円札もまじっていたかもしれません」などとして矛盾が“解決”されている。また、発見された現金は札の番号部分を含む全体の3分の1から2分の1が焼けこげていたが、供述調書にはこれについての言及が全くない。
『自白が無実を証明する』では「5万円」という金額が、封書の発見以前から、盗まれた金額や被疑者の逮捕時の所持金等によって取調官にも推測可能なものであって「秘密の暴露」とは言えないこと、また上記のような食い違いが「無知の暴露」であるとして、冤罪とする根拠としている。


この報道では元郵便局員の男性の証言がどのような意味を持つのかがよくわからないが、封書に関する捜査が尽くされていなかった可能性を示すということであろうか。