「証人テスト」による誘導の懸念

裁判員裁判の死刑判決を初めて破棄した6月の東京高裁判決をめぐり、東京高検は25日、「一般市民の量刑感覚を個々の裁判に反映させるという裁判員制度の趣旨を損なう」とする上告趣意書を最高裁に提出し、要旨を報道機関に公表した。検察が上告趣意書の内容を公表するのは異例だ。


 最高裁は昨年2月、覚醒剤の密輸事件で、「事実認定がよほど不合理でない限り、裁判員裁判の判断を尊重すべきだ」との判断を示している。検察側が上告理由に、この判例への違反を挙げるのは今回が初めて。
(後略)

「後略」部分で記事が指摘しているように、東京高裁では10月にも一審での死刑判決が破棄(無期懲役に)されており、すでに検察・弁護側双方が上告していますので、こちらの上告審でも検察が同じ主張をすることは十分考えられます。
ところが、その検察自身が“裁判員裁判の判決を尊重すること”に疑問を抱かせるようなふるまいをしています。

 宮城県石巻市で2010年、3人を殺傷したとして死刑判決を受けた元少年(22)の裁判員裁判で、検事が証言内容を指示した疑いが浮かんだ。事前に証人となる共犯者に、「(元少年の)犯行は計画的」と法廷で話すよう迫ったという。ほかの事件でも検察が証言内容を事前に証人とすり合わせたとみられる事例が相次いでおり、弁護側や裁判所からこの手法を問題視する指摘が出ている。
(中略)
 宮城の事件の最大の争点は、2人の殺害に計画性があったかどうか。問題となったのは、元少年の共犯とされ、服役中の男性(21)の証言。男性は仙台高裁で昨年4月、「(計画的ではなかったと証言しようとしたが、証人テストで)だめだと検事に言われた」と述べ、一審・仙台地裁で偽証したことを認めた。「証人テストの際、『調書通りに答えればいいんですか』と言うと、『そのほうがいいね』と言われた」と告白した。


 男性は取り調べ段階では元少年が前日から殺害を計画していたと供述。この通り証言すれば、元少年を死刑とする決め手となり得た。男性は証人テスト時に検事から言われた指示に従い、供述調書の通りに法廷で証言。10年11月の一審判決は元少年を死刑とした。
(後略)

この「証人テスト」ですが、記事末尾の「キーワード」解説では「記憶が薄れたり緊張したりして公判進行が滞ることを防ぐことが本来の目的」であること、そして「裁判員裁判の導入で、裁判所からの実施要請は強まっている」ことが指摘されています。裁判員裁判であるが故に、「公判進行が滞ること」を避けたいという意向が強く働くためでしょう。しかし裁判員裁判のために行われる「証人テスト」が検察の筋書きを証人に強要する場になるのであれば、裁判員裁判の判決に対する信頼は揺らぐことになります。なぜなら……

 証言内容をあらかじめ確認することを法曹関係者は「証人テスト」と呼ぶ。録音・録画の対象ではないため、密室で証言が誘導される恐れがあると指摘されてきた。

この通り、構造的な誘導の危惧が存在しているからです。過去にも「証人テスト」での誘導が疑われたケースがあるとのこと。

 ゆがんだ証人テストは冤罪(えんざい)を生みかねない。愛知県で08年11月に起きたコンビニ店の売上金窃盗事件。被告の店員の有罪を立証するため、1年後の公判に出廷した店長は、事件発覚の経緯について、捜査段階とは異なる証言をした。その理由を「証人テストで思い出した」と説明。この変遷を名古屋地裁は不自然と判断して「誘導の疑いを否定できない」と無罪に。検察側は控訴を断念した。