「息子は、工場で死んだ」


2008.9.5 MSN産経ニュース 「遺族がTOTOを提訴 偽装請負での労災死事故で 大津地裁

 衛生陶器最大手「TOTO」(北九州市)の滋賀工場(滋賀県湖南市)で昨年5月、偽装請負の状態で働いていた男性が死亡した労災事故をめぐり、両親らが5日、「事故はTOTO側が安全管理を怠ったため起きた」として、同社に約1億円の損害賠償を求める訴訟を大津地裁に起こした。
(中略)
 西野尾さんは、所属する会社とTOTO側との業務請負契約に基づいて勤務。TOTOとの間に直接の雇用関係はなかったが、原告側は「安全管理は実質的にTOTO側が行っており、同社の指揮下にあった」と主張している。
 事故をめぐっては、東近江労働基準監督署労働安全衛生法違反の疑いで同社を書類送検し、甲賀簡裁が今年7月、罰金50万円の略式命令を出している。
(後略)

 この両親を取材したドキュメンタリーが先日放映されていた(12月14日、24時30分〜)。

去年、滋賀県内の大手住宅設備メーカーの工場で39歳の男性が労災死した。死亡した男性について労働基準監督署は、請負労働者を装いながら派遣労働者として働く"偽装請負"と認定した。しかし、メーカーは直接の雇用関係がないとして事故の責任を認めなかったため、男性の両親は提訴に踏み切った。
近年、非正規労働者の労災が急増している。雇用だけでなく、職場の安全さえも十分配慮されていない非正規労働者の現状を伝える。

厚生労働省によれば昨年の労災死は1,357人で「過去最少」とのことだが、他方で昨年における「労災隠し」での送検件数はこのデータによればそれまでの10年間で最高となっている。また1,357人といえば同年に厚労省の統計で「他殺」と分類された死者数*1の倍以上にのぼる*2。もちろん、労災死のすべてのケースで企業に重大な落ち度があったというわけではないだろうしすべての企業が責任逃れに走るというわけでもないだろうが、ともあれ労災死は刑事犯罪による死よりは身近な死である、ということだ。
また、番組では非正規労働者の労災死が増えていることが指摘されていた。もちろん母数の増加によるところは大きいのだろうが。この両親は番組中でもうひと組の夫婦、同じく非正規労働者の息子を労災で失った夫婦を訪問する。亡くなった二人に共通しているのは、休憩時間に一人で働いている時に起きた事故で死亡しているため、事故の目撃者は一人もいない(と、企業側が説明している)ことだった。多くの同僚がいるはずの職場での、孤独な死。

*1:ただしこの統計は在日・来日外国人の被害者数を含まない。とはいえ、人口比から考えて在日・来日外国人の被害者数を加えても大きな影響はあるまい。

*2:司法解剖制度の不備のため殺人にもかなりの暗数があるのではないか、という問題提起が近年行なわれている。ただ、同様な暗数が労災死についてはないと考える理由もない。