本末転倒の見本

アジア太平洋戦争中に労働動員された朝鮮人にもっとも忌避された職場の一つが炭鉱で、よりマシな職場を求めて逃亡するケースが多発したとされます。それどころか「人手不足の中で、他の事業所から労働者を逃走させて引き抜くことすら一部で行われていた」(外村大、『朝鮮人強制連行』、岩波新書、63ページ)、とも。もちろん炭鉱労働が危険かつ重労働なわりに低賃金だったことが根本的な原因です。このことを念頭において、上林千恵子・法政大教授のコメントを読むとある種の感動すら覚えます。

 実習生が失踪する背景には、不法就労であっても雇用を確保したいほどの人手不足に陥っている職域の存在がある。人手不足の解消が解決への道だ。日本では現在、外国人労働者を受け入れる手段は技能実習制度しかない。政府が検討しているように、受け入れ期間の延長や受け入れる職種の拡大などで枠を広げるのが合理的な選択肢だ。

外村氏は『朝鮮人強制連行』の序章において、朝鮮人労務動員が「現代社会の直面する問題、具体的には外国人労働者の導入・活用、処遇といった問題とも類似性をもつものではないか」、「現代の外国人労働者も戦時下の朝鮮人労務動員も、労働力不足を背景にホスト社会のマジョリティが忌避する職場で就労させるために導入された点では同じ」と問題提起していますが、全くもってその通りだとおもいます。