「裁判員裁判10年(仮)

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水曜日

来る6月9日深夜(10日未明)、日テレ系列のNNNドキュメント'19が『裁判員制度10年」(仮題)を放送予定です。番組HPによれば、一審の死刑判決が控訴審で覆ったケースをとりあげるようです。

昨夕の読売テレビ「かんさい情報ネット ten.」でも予告を兼ねて(?)この問題を少しとりあげていましたが、スタジオの雰囲気はほぼ「見直し許すまじ」一色。

有罪無罪や量刑の判断、とりわけ死刑の可否の判断を正体不明な「市民感覚」なるものに委ねることの妥当性は改めてきちんと問われるべきですが、それ以前の問題が明らかになってきています。

-読売新聞 2019年5月19日 (社説)裁判員制度10年 辞退率の増加が気がかりだ

 気がかりなのは、裁判員の候補に選ばれながら、辞退する人の割合が増え続けていることだ。施行当初に53%だった辞退率は、2018年には67%に上がった。

 この傾向に歯止めがかからないと、いずれは時間に余裕のある人しか裁判員を務めなくなる。職業や年齢に偏りが生じれば、幅広い国民の視点を反映させるという制度の根幹が揺らぎかねない。

 偏りが「時間に余裕」「年齢」「職業」だけにとどまるのならまだいいのですが、厳罰化傾向や推定無罪原則に対する理解などにも及んだ場合、制度の弊害は無視できないものになるでしょう。

 

一方、裁判員制度導入の際に期待されていた効果が出ていると評することができるかもしれないデータもでているようです。

-西日本新聞 2019年5月17日 裁判員制度10年、殺人罪起訴率4割減 未遂含め 「自白なし」慎重対処

 裁判員制度が始まった2009年以降、殺人罪(未遂を含む)の起訴率が4割減ったことが検察統計で分かった。裁判員は直接証拠を重視する傾向にあり、検察側が殺意を認める供述がない事件の起訴に慎重になっていることが一因とみられる。手堅く起訴すれば、上がるはずの有罪率もわずかに下がった。刑事司法に詳しい弁護士は「疑わしきは被告人の利益にという刑事裁判の原則が、市民参加で一定程度実現されてきた」と指摘する。

ただ、自白がなければ殺人罪では起訴しにくいとなると、自白をとろうと躍起になる動機にもなりかねませんので、人質司法に対する批判は続けていかねばなりません。

 
 

「漁獲量が過去最低」とか言ってる場合じゃない

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日曜日

-NHK NEWS WEB 2019年4月26日 ニホンウナギの稚魚 今季の漁獲量が過去最低に

絶滅危惧種を獲り続けていたら獲れなくなるのはあたりまえで、こんなことにニュース価値はありません。むしろ見出しにしなければならないのは次の部分です。

ただし、香港などからの稚魚の輸入が大幅に増え、養殖される量は前のシーズンとほぼ同じ水準となっているため、水産庁では「消費者へのウナギの供給には大きな影響はない」としています。

 しれっと「香港などからの」と書いてますが、香港からの輸入には大きな問題があることがすでに報じられています。

-日本経済新聞 2019年3月25日 出所不明の香港ウナギ6トン 日本輸入、養殖稚魚の8割 ワシントン条約で批判も

香港にはシラスウナギ漁の実態がほとんどなく、輸出を禁じる台湾などから不法に持ち出された可能性が高いと指摘される。5月下旬からスリランカで開かれるワシントン条約の締約国会議でニホンウナギの国際取引の透明化が議題に上る予定で、日本への批判が出る可能性がある。

 そして水産庁が密輸疑惑をスルーして「消費者へのウナギの供給」云々と寝ぼけたコメントをしていることを無批判に報じ、まるで“安心材料”であるかのように扱っています。

 

 

 

『法と民主主義』第536号、『精神医療』第93号

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日曜日

-『法と民主主義』2019年2/3月合併号(第536号)

日本民主法律家協会刊の『法と民主主義』最新号が「特集★再審開始に向けた闘い──冤罪をただすために」という特集を組んでいます。大阪地裁・大阪高裁合同庁舎の書店で探してみても見当たらなかったので通販で取り寄せました。現在再審開始・再審無罪を目指して争っている事件について弁護団メンバーが見開き2ページで事件の概要や再審請求審での争点等について解説しています。帝銀事件狭山事件などだいたいのことは知っているつもりになっていた事件についてすら、まだまだ知るべきことがあったことを教えられました。冤罪に関心のある方にはおすすめです。

-『精神医療』第93号(特集:旧優生保護法と現代)

特集は旧優生保護法下の強制不妊手術問題をとりあげていますが、この号から中島直医師による連載「袴田巌さんの主治医になって」が始まっています。

松橋事件に再審無罪判決、ほか

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金曜日

-朝日新聞DIGITAL 2019年3月28日 松橋事件再審、殺人罪に無罪判決 熊本地裁

再審開始を支持する最高裁の決定が下った時点で予想されていた通り、無罪判決が下りました。以前にも書いたことですが、再審の場で有罪主張すら放棄した検察が最高裁に特別抗告してまで再審開始を阻止しようとしたことは厳しく批判されねばならないでしょう。

 

-NHK NEWS WEB 2019年3月27日 「仮想通貨獲得のプログラム「ウイルスではない」と 無罪判決」

こちらは自白事件ではなく、むしろ被告人が当初から強く無罪を主張していた事件ですが、やはり無罪判決が出ています。弁護側の「同じ技術はネット広告や警察のホームページなどにも広く使われていてウイルスではない」といった主張を踏まえると、誤った見込み捜査に基づく起訴ではなかったかどうかが問われそうです。

 

この2つともSNSでは冤罪やハイテク犯罪に関心のある人々が話題にしていますが、私の観測範囲ではこれらとは別の無罪判決の方がはるかに大きな話題になっています。そう、最近立て続けに3つ下った、性暴力事件での無罪判決です。多くは無罪判決に批判的な反応です。司法のジェンダー・バイアスはとりわけ性犯罪については長らく指摘されたところで、近年最高裁も対策の必要性を認めるようになっていたところです。その観点からは3つの無罪判決に疑義を持つひとが現れるのは無理のないところです。

他方、おそらくは「こんな事件でも無罪になるのか!」という経験の何倍も「こんな事件でも有罪になるのか!」という経験をしてきたであろう弁護士アカウントの中には、日本における無罪判決の重みを強調し、安易な判決批判をたしなめる論調も少なからず見かけました。高すぎる有罪率、人質司法、自白偏重捜査、見込み捜査……など、これまた長年指摘されてきた日本の司法の問題点を、性犯罪の捜査・裁判だけが免れていると考える理由はたしかにありません。この点を踏まえるとき、無罪判決批判の中に“判決文を読まない批判”どころか“さして長くない報道すら誤読した批判”が混じっていることについては、やはり問題だと言わざるを得ません。たとえばこういう例。

 記事を普通に読めば、判決はまさに「暴力的な行為に馴れていない人がいきなり暴行されたら、パニクる」ことを踏まえ、「女性が抵抗できなかった主な理由は、女性の「頭が真っ白になった」などとする供述などから「精神的な理由によるもの」と指摘」しているわけです。この点ではひょっとするとかつての同様の事件における判断(「顕著な抵抗がなかった」→「抵抗する意思がなかった」)よりも、被害者の心理に即した判断になっている可能性が高いわけです。無罪判決につながったのはあくまで被告人の認識についての事実認定です。

また、実態以上に“なんでもかんでも無罪”であるかのような認識が広まってしまうと、かえって被害者の泣き寝入りを助長しかねない、という指摘も見かけました。これもまた傾聴に値すると思います。

袴田さん釈放から5年

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水曜日

-静岡新聞 2019年3月24日 「袴田さん姉「100年頑張る」 都内集会、再審求め」

今日で静岡地裁の再審開始決定、袴田さんの釈放から早くも5年が経ってしまいました。秀子さんの「50年でだめなら100年頑張るしかない」という強靭な精神には頭が下がりますが、個人にこれほどまでの強さを要求するのは制度の血管と言うべきです。刑事訴訟における検察官上訴にすら反対論があるのですから、再審開始の決定については尚更、検察の抗告を不可とする法改正が求められると思います。

湖東病院事件で再審開始

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水曜日

2003年に発生した「湖東記念病院」事件で、再審開始が確定しました。検察の特別抗告を最高裁が18日付けで却下しました。

archive.fo

MBSは昨年1月に「映像’18」枠(当時)で「再審決定〜元看護助手・無実の訴え〜」を放送しており取材を継続していると思われるので、今後に期待したいと主ます。

他方で、再審開始を認めないという決定も東京地裁で下っています。請求人は鈴木宗男氏。受託収賄などでの有罪判決に対して再審請求をしていました。

鈴木宗男元議員の再審認めず :日本経済新聞

 

西日本新聞が免田栄さんの近況記事

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木曜日

-西日本新聞 2019年3月13日 「免田さん資料継ぐ 再審請求中「死刑停止」…国の解釈示す文書も 再審無罪の記録寄贈

1983年に日本の死刑囚で初めて再審無罪となった「免田事件」の免田栄さん(93)=福岡県大牟田市=が、自身の再審や死刑に関する資料を熊本大文書館(熊本市)に寄贈した。再審請求中における死刑執行の国の解釈を示す文書も含まれ、同館は「再審制度を考える上で非常に貴重な資料」としている。2019年度中に目録にまとめ、一般に公開する予定。

見出しでも言及されていますが、記事の後続部分には国から免田さんに「再審請求中により死刑の執行はされない」という趣旨の文書が届いていたことが記されています。

 

-西日本新聞 2019年3月13日 「老いても消えない冤罪の傷 「元死刑囚」免田さんの願い

こちらは免田さんに直接取材した記事。いまだに周囲のひととの交際に気後れを感じていることなど、冤罪の重みが伝わってきます。「再審無罪後も「やっぱりおまえが犯人だろう」と中傷され続けた」ことについては、当ブログでも立川談志による二次加害をとりあげたことがあります。