『生み出された物語』

  • 山本登志哉(編著)・脇中洋・齋藤憲一郎・高岡昌子・高木光太郎(著)、『生み出された物語―目撃証言・記憶の変容・冤罪に心理学はどこまで迫れるか』、北大路書房

法と心理学会叢書」の一冊。甲山事件の差し戻し審対策として弁護団に依頼された著者らが行なった実験*1がベースになっている*2
過去に当ブログでとりあげた文献で言えば、『心理学者、裁判と出会う』との内容的な接点が多い。『心理学者、裁判と出会う』の著者たちは自らの方法を「スキーマ・アプローチ」と呼んでいるが、本書の第II部は「スキーマ」ないし「スクリプト」が記憶に与える影響について具体的に分析しており、「スキーマ・アプローチ」の理解にも資するところが少なくないと思われる。
日本軍「慰安婦」問題や沖縄戦「集団自決」問題などを通じて「証言」という問題に関心をもった方には、とりあえず第10章だけでも読んでいただきたい。「記憶を個人の現象としてではなく、社会的な現象として扱い、読み解く」(190ページ)という発想は、戦争体験の証言(加害証言であれ、被害証言であれ)に触れる際には極めて示唆的なものだからだ。

*1:ただし著者の一人高木光太郎氏は実験に参加しておらず、本書には異なる視点を導入するために参加している。

*2:ただし、裁判では証拠として申請されず、新聞紙上で紹介されるにとどまった。裁判の場に持ち出さないという判断についての高木氏の分析=第11章はなかなか興味深い。