「ニッポンの食卓から魚が消える!?」


1月25日(木)の午後10時から放送されていた「たけしのニッポンのミカタ!〜ニッポンの食卓から魚が消える!?」を録画しておいたのだが、昨日ようやく見た。
のっけから銀座の有名寿司店久兵衛」の主人がスタジオでマグロを捌いている絵で、嫌な感じ。
三重大の勝川俊雄・准教授がサバ、マグロ、ウナギをとりあげて「食卓から消える危険度」を解説。サバとマグロについては、日本の漁業者が目先の利益を追って未成熟魚を獲ってしまっているという問題(なんと、日本におけるマグロの漁獲の9割がヨコワの段階でのものだという! 実際、近年になって鮮魚売り場でよくヨコワを見かけるようになった気がする)が指摘される。
ここでもう一人のレギュラー、国分太一が「久兵衛さん、でもこれ複雑ですよね。やっぱりマグロは出したいという気持ちはあるけれども、助けたいという気持ちもたぶんあるだろうし……」と、極めて順当なしかたではなしを振ったところ、久兵衛主人が驚愕のコメント。

(……)いまの時期は確かにないんですけど、これは時化て〔いるので漁ができず、マグロが〕ないんですよ。あくまで〔漁に〕出れれば獲れるんです。そういう部分で、実際的にはもう希少価値になってる、という実感はないですね。


―(国分)ないですか?


はい。実際、生活としても、消費者もあんまり感じてない、ってゆうかね。

いや〜そりゃ銀座久兵衛さまともなれば獲れた魚の一番いいところだけお買いになるのでしょうから、実感はないんでしょうし、久兵衛の常連客様におかれても同様でしょう。しかしデパ地下の鮮魚コーナーならともかく、スーパーの鮮魚売り場でちゃんと目を開けていれば、この数十年での変化は明白というもの。サバに関しては勝川准教授が「サバも昔は大衆魚であったものが、いま日本の大きなサバってすごい値段があがって……」と言いかけたところでたけしが「サバを読むのサバだねぇ」などとかぶせてしまったので尻切れとんぼになってしまったが、たしかにこの解説通り、型が大きく太ったサバはもはや大衆魚とはほど遠い価格になっている。その一方で、昔なら売り場に並ばなかったようなちっちゃいサバが(サバに限らないが)売られていたりする。
本来なら水産資源の保護の為に先頭を切って尽力してもおかしくない立場の人間がこれだからなぁ……、と暗澹たる気分になった。


続いての話題は「魚離れ」、ということでファストフィッシュが紹介される。三枚おろしができたからといって偉いわけではなく、また家事負担が依然として不平等に分担されそれゆえ家事能力も不平等に期待されている現状では、こうした加工魚を一概には否定しにくい。しかし水産行政としては「魚離れ」対策よりまずは乱獲対策だろ、と思うし、鮮魚売り場が加工品だらけになってしまうと消費者が水産資源の危機的状況に気づく機会が失われてしまう、というのも気になるところだ。(それに、後述の話題と関連するが、調理技術があれば切り身で売れないような魚が食べられるわけで、うまい魚、珍しい魚を安く食えるしね。)


次は近大によるマグロ養殖の話題。養殖といってもマグロの餌になっているのが天然のサバ、アジ、イワシであることがせっかく指摘されているのに、それがもっぱら養殖コストの問題として語られてしまい、またまた暗〜い気分になっていたら、ゲストの伍代夏子(実家が魚屋だったそう)が「マグロのためにサバとアジがどんどんいなくなっちゃって、難しいですね」とコメント。だが残念ながらそれ以上はなしは膨らまず。


最後は「萩シーマート」の話題。勝川准教授が公式サイトで話題にしたこともある魚市場。従来の市場では「雑魚」扱いされていた魚種を積極的に売るとりくみをしているところだ。「ファストフィッシュ」とは正反対の方向性と言える。従来カネにならなかった魚の市場価値を上げれば漁業者・販売業者・加工業者の収入源になる一方、定番の魚種への漁獲圧を下げることも可能になるかもしれない。もちろん、市場価値の上がった魚の資源量をきちんと管理することも課題になるし、消費者の側の意識改革も求められるだろうが。


全体として、昨年夏に私を憤死させそうになったウナギ報道の数々に比べればかなりまともな内容だっただけに、久兵衛主人のコメントが悪目立ちした感がある。