日本神経科学学会、「ヒト脳機能の非侵襲的研究」に新指針


 脳科学研究の成果が、脳ブームに伴って拡大解釈されて広がっていることなどを懸念し、日本神経科学学会は8日、研究指針の改定を発表した。脳活動の測定方法の安全性や測定でわかることの限界を知り、検証を受けた論文などを発信するように求めた。


 指針では、科学的根拠のない「神経神話」と呼ばれる疑似脳科学が独り歩きしていることを憂慮。不正確な情報や大げさな解釈で脳科学への信頼が失われることがないように、科学的な根拠を明確にして研究成果を公表するよう求めた。


 経済協力開発機構OECD)の報告によると、神経神話には「3歳までが学習を最も受け入れやすい」「右脳左脳人間」「脳は全体の1割しか使っていない」などがある。
(後略)

この記事が言及しているのはおそらく「「ヒト脳機能の非侵襲的研究」の倫理問題等に関する指針」と題する文書のことだと思われる。「非侵襲的研究の目的と科学的・社会的意義」と題するセクションに以下のような一節がある。

(前略)
 一方、上述したように脳の働きについて新たな知識が得られることによって、一般社会に不正確あるいは拡大解釈的な情報が広がり、科学的には認められない俗説を生じたり、或いは脳神経科学の信頼性に対する疑念を生じたりする危険性が増大している。脳神経科学の発展と進歩の礎は、被験者やさまざまな関係者を始めとする社会から信頼を獲得し、研究の社会的有用性と意義を十分に認識してもらうことにある。さらに非侵襲的脳研究は人の尊厳に直結した「心」の領域をも研究対象とすることから、例えば、“心を操作されるのではないか”、“心を読み取られるのではないか”といった、科学的には根拠のない危惧を社会に引き起こすことのないよう特段の配慮が求められる。また、非侵襲的脳機能研究の結果が、特定の人々の差別や排斥に使われ人権侵害を生じることがないように注意すべきである。
 前章でも述べたように、現在、脳神経科学に対する国からのかなりの財政的支援がなされているが、このような状況においては研究成果の社会への還元が求められている。そのため報道や書籍などのメディアを通しての研究成果の周知活動、或いは公開講演会やサイエンスカフェなどのアウトリーチ活動が推奨されているが、研究成果が正しく伝わり上記のような擬似脳科学あるいはいわゆる「神経神話」が生じないよう、成果を社会がどのように受け取るのかを考慮し、メディアから最終的にどのような形で社会に出ていくのかを確認のうえ研究成果を発表することが必要である。そのためには、メディアや社会の特徴を熟知するとともに、メディアや社会との相互コミュニケーションを積極的に行っていくことが望まれる。

すでに影響力を持ってしまっている「神経神話」に研究者共同体としてどう取組むか、といった問題提起はないようである。