NNNドキュメント'11 「布川事件 隠された154の証拠」

強盗殺人の罪で29年間獄中生活を送った桜井昌司さん(64)と杉山卓男さん(64)。5月24日、2人に無罪判決が言い渡された。逮捕されてから実に44年。物証はなく、捜査段階での「自白」と「目撃証言」が、彼らの人生を大きく変えた。2人はそれらを「作られたものだ」と訴える。NNNドキュメントでは2人が服役中の1991年と、仮釈放された後の1998年の二度にわたってこの問題を取り上げた。いま大阪地検検事による証拠改ざん事件など、検察の捜査が問題となっているが、40年以上前に起きた出来事は、現代に生きる私たちの身にも起こりうる危険性をはらんでいる。布川事件の問題をあぶり出し、捜査機関が内包する問題に迫る。

ホドロフスキさんにコメント欄でリマンドしていただいたおかげで録画が間にあいました。
編集された自白テープが示す供述の誘導に加えて証拠隠しが明らかになると、警察や検察は二人の無実を(薄々、あるいははっきりと)認識しつつ陥れたのではないかと思いたくなってくる。とはいえ、公安事件や職業的犯罪者の犯行の場合などはまた別として、強盗殺人の捜査にたずさわった関係者が「真犯人」を捕らえようと懸命に努力したことはおそらく確かなことだろう。被疑者・被告人に有利な証拠は確証バイアスによって証拠価値を低く見積もられてしまい、「開示するまでもない無意味な証拠」としてお蔵入りにされてしまう、また捜査・公判関係者間の同調によって正当な疑問の芽は摘まれてしまう、ということだろう。番組でも指摘されていたように、捜査の過程で集められた全証拠の開示が重要となる所以である。
ところで、いまからちょうど10年前の2001年、新潟県で女性が9年間も監禁されていた事件が発覚した。この事件の犯人には懲役14年の判決が下ったが、「それでも軽い」と憤激する声が少なくなかったのはご承知の通り。しかし2人の若者に29年間の服役を強い、その後10年以上保護観察下での生活を強いたことで刑務所に行く人間は1人もいない。むろん、冤罪事件を引き起こした司法関係者に刑事罰を与えることができるようにした方がいい、とはまったく思わない。しかし29年×2の“不当な監禁”に対して怒る義務がこの社会はあるし、その怒りを全証拠の開示、取調べの全面可視化などの実現へと向けるべきだろう。


ところで、桜井・杉山両氏は強盗殺人では無罪になったが、別件では有罪(執行猶予付き)になっている。刑事補償法では「一個の裁判によつて併合罪の一部について無罪の裁判を受けても、他の部分について有罪の裁判を受けた場合」に「裁判所の健全な裁量により、補償の一部又は全部をしないことができる」とされている。まさか「全部をしない」という判断はしないだろうが、有罪の分補償から差し引くといった形で司法のメンツを立てようとしたりしないか、気になるところだ。「だって有罪なんだろ?」と思うひともいるかもしれないが、強盗殺人の捜査のための別件逮捕であったのだから、本件がなければ逮捕・起訴に値しない程度の事件だった可能性を考慮すべきだろう。