これはひどい


森繁久彌が亡くなったことを受けた11月12日の朝日新聞天声人語」より。

(……)
人も芸も軽妙だった。TBSの生放送ドラマ「七人の孫」で、お手伝いさん役の新人女優をいたく気に入った森繁さん、放送当日、急坂のラーメン屋台という妙な場面を注文する。台本なしの本番。屋台の丸いすに座ったご隠居は、即興で横のお手伝いにすり寄った▼新人がうぶに押しのける。屋台は坂をずり始め、2人は抱き合って倒れ込んだ。このわるさ、配役を任された久世光彦(くぜ・てるひこ)さんが『今さらながら大遺言書』(新潮社)で明かしている。相手は後の樹木希林さんだ▼女性を愛し、映画でも尻や胸によく手が伸びた。パシッとやられて退散する流れがおちゃめで、いやらしさはない。座談の色話には軽(かろ)みが漂い、エロというより、小さな字で助平と書きたいおかしみがあった(……)

驚くべきことではなく地金が出ただけということなのだろうが、こうも堂々とセクシャル・ハラスメントが正当化されているのをみることになるとは。むろん「映画」の場合には一方的なアドリブではなく脚本で予定された(つまりは相手役の女優も了解済みの)ケースだってあっただろうが、その場合でもそれが「パシッとやられて退散する流れがおちゃめで、いやらしさはない」ように見えるのはその当時、セクシャル・ハラスメントがそれとして名指されることすらなくまかり通っていた現実があってのことだ、という認識はまるでないらしい*1

*1:被害体験のある女性にとってそれが「おちゃめで、いやらしさはない」ものと映るかどうかを問うてみるつもりすらないのだろう