『三国志』

レッドクリフ』に出ずになんでこれに出てんだよ? なアンディ・ラウ趙雲を演じる三国志もの。長坂の戦いでの劉禅の救出と、孔明の(前)出師の表をうけての「北伐」への従軍(鳳鳴山での戦い)という二つの、かなり間の空いたエピソードを核にするのは趙雲を主人公にするなら順当ではあるものの、脚本を書くうえではかなりの困難が予想される選択肢だが、「結構上手くやってる」面と「やっぱ無理がある」面とが半々、という感じ。地理的な設定が無茶苦茶(劉禅の救出も鳳鳴山近くでのこととされている)なのは、まあ理解できる改編(史実や『三国志演義』との相違は無視するとして映画に登場する地図との齟齬なんかは goofs 好きを刺激しそうだが)。他方、アクション監督も務めるサモ・ハン演じる新キャラは単なる語り手に徹した方がよかったと思うし、後半は(『三国志演義』では趙雲はそこそこ軍略にも通じた武将という設定なのだから)知略を駆使した戦闘がしっかり描かれるのかと思いきや、けっこうあっさりと決着しちゃうし。まあ、一番の問題はアンディ・ラウアメリカの消防士にしか見えないポスター(というか装束のデザイン)だと思うが。


ロケ費の都合か合戦シーンほとんど砂漠のような場所ばかりで「こんな土地を取りあっても意味ないじゃん」とか思ったり、音楽にマカロニ風味が混じってたりと、明らかに『レッドクリフ』より低予算な兆候は見えまくりなんだけど、『レッドクリフ』よりも騎馬での戦いをちゃんと映像化しようという志があるのは評価すべきところだと思う。曹操の孫娘(成人後、都督としての)を演じたマギー・Qはスクリーン映えは申し分ないんだけど(モデルと違って女優はあんまり小顔だといかんのだろうな、と思った)、ファンタジーではなく一応古代史にルーツをもつ物語にこういうキャラクター*1を登場させるのは個人的には好みではない。そんなのはPCですらないと思うし。またやはりアンディ・ラウが主人公を演じた『墨攻』にも感じたことだが、この手の素材で中途半端にペシミズムとか厭戦観を盛り込むのはやめた方がいいのでは。マギー・Q演じる曹嬰もあっさり部下*2を犠牲にするキャラクターにした方が、この手の映画としては正解だったように思う。

*1:当時の女性の社会的地位からしてあり得ない、ありそうにない役割のキャラクター。

*2:韓徳。ちなみに韓中のキャストが出演している時代もの映画『MUSA』でモンゴル軍の将軍を演じていた俳優だった。マギー・Qはハワイ生まれのヴェトナム系アメリカ人であるわけで、アジア映画界もかなりグローバル化しているのが実感される。