日野町事件、再審開始決定

 滋賀県日野町で1984年、酒店経営の女性(当時69)が殺害された「日野町事件」で、大津地裁(今井輝幸裁判長)は11日、強盗殺人罪無期懲役が確定し、服役中に病死した阪原弘(ひろむ)元被告(当時75)の再審開始を認める決定を出した。

再審開始の決め手となったのは次の2点です。

 第2次再審請求では、阪原元被告が金庫の投棄現場まで捜査員を案内したとする「引き当て捜査」の写真ネガを検察側が開示。現場にたどり着くまでが写真19枚で「再現」された実況見分調書が作られ、自白の信用性を裏付ける証拠とされてきたが、このうち8枚が帰り道で撮られた写真と判明した。

またしても検察が不利な証拠を隠していたわけですね。

 また、弁護団は殺害方法に関する専門医の新たな鑑定書も提出。「自白の方法では遺体の首に生じた圧迫痕などを説明できない」と訴えていた。

こちらは自白偏重、というより「自白があるという事実偏重」で、客観的証拠と自白の齟齬を軽視した誤り、ということになろうかと思います。
なお再審請求審の争点については、決定が降る前に京都新聞が比較的詳しく整理しています。

また時事通信が配信した決定要旨は次の通りです。

録画していてこの事態

 4月に大津地裁で開かれた殺人未遂事件の裁判員裁判で、滋賀県警の取り調べが「どう喝に準ずる」として、検察側が証拠提出した警察官調書を一部撤回していたことが9日、関係者への取材で分かった。取り調べは録音・録画されており、可視化された証拠書類の不採用は珍しいという。
(中略)
 伊藤寛樹裁判長は「威圧し、どう喝に準ずるほどの言葉で、警察官が欲する答え以外の供述をするのが著しく困難だった」と指摘し、検察側は証拠提出していた警察官調書を一部撤回。地裁は、検察官調書も証拠採用しなかった。
(後略)

録画されていて、場合によっては裁判で録画が証拠になることがわかっていてこれなんですから、可視化されていない取り調べで一体何が行われているか、想像に難くないですね。

痛恨の記憶喪失!


先週の記事でジャーナリストの児玉隆也(故人)がイタイイタイ病の「カドミウム原因説」へのバックラッシュ記事を書いていたことについて「驚きました」と述べたのですが、なんと8年前にNNNドキュメントがやはりイタイイタイ病をとりあげた際、コメント欄で gansyu さんにこの児玉記事のことをご教示いただいていたということが判明しました……。
これはやはり責任をとって、当該記事を読まないといけないですね。旗本偏屈男さんにご教示いただいた批判本もあわせて。

「清と濁 イタイイタイ病と記者たちの50年」


6月10日に放送された(再放送6月17日)NNNドキュメント'18の「清と濁 イタイイタイ病と記者たちの50年」、通常の30分枠なのが残念に思える内容でした。

長年イタイイタイ病を取材してきた元記者のこの言葉、他の様々な問題にも通じますね。
ところで、三井金属鉱業を相手取った訴訟で患者側が勝訴した後に出てきた「カドミウム原因説」否認の動きとして紹介されていた『文藝春秋』1975年2月特別号の記事の執筆者が児玉隆也だったので驚きました。そう、74年に「淋しき越山会の女王」を同誌に寄稿、立花隆の「「田中角栄研究−その金脈と人脈」とともに田中退陣のきっかけをつくったとされるフリーライターです。調べてみるとこの「イタイイタイ病は幻の公害病か」が遺作だったようです。

袴田事件再審請求即時抗告審、きょう決定(追記あり)


あの静岡地裁の決定からすでに4年以上が経過していますが、本日東京高裁が再審開始の可否に関する決定を下すことになっています。


追記:信じがたい不当決定です。弁護団の特別抗告は当然です。

「ご飯論法」といえば……


“働かせ方改悪”法案をめぐる質疑における加藤加藤厚労省の答弁が「ご飯論法」だ……という批判が話題になってますね。それを受けて第二次安倍政権に「ご飯論法」が蔓延しているのではという指摘もあります。
私も一つ、類似の例を思い出しました。

 防衛庁防衛研究所図書館の永江太郎資料専門官の話 こういうたぐいの資料があるという認識はあった。しかし、昨年暮れに政府から調査するよう指示があったが、「朝鮮人慰安婦関係の資料」と限定されていたため、報告はしていない。(後略)

1992年1月11日の『朝日新聞』朝刊より。そう、「慰安所」への軍の関与を否定してきた日本政府の嘘が明らかになった日です。要するに、「嘘ではない」という言い逃れの余地を残してごまかそうとする時の、定番のテクニックということなんでしょう。

「ブレイブ 勇敢なる者“えん罪弁護士”完全版」(追記あり)


もう一ヶ月前のことになってしまいましたが、2016年にNHK総合で放送された「ブレイブ 勇敢なる者「えん罪弁護士」の完全版(放送時間が50分から100分へ)がBS1で放送されておりました。
地上波版を見た際の記事と今村氏の著書に関する記事は以下のとおりです。
http://d.hatena.ne.jp/apesnotmonkeys/20161127/p1
http://d.hatena.ne.jp/apesnotmonkeys/20130204/p1


以下追記
この「完全版」の方で詳細に取り上げられていたのが、2014年の7月に東京高裁で逆転無罪判決が出た、バス車内での痴漢事件。一審では、被害者が“左手でつり革を持っていた犯人が右手で触った”と供述していたところ、弁護側が右手で痴漢行為を行うことが不可能であることを立証すると、“左手で触ることが不可能とは言えない”というロジックで有罪判決を下していた事例。
……と紹介すると思い当たられた方もおられるかもしれないが、これは今年の3月にNHKEテレの「ろんぶ〜ん」という番組で放送され多くの批判を浴びた「ロンブー淳と論文を楽しむ!「痴漢」のおもしろすぎる論文」でとりあげられた研究のきっかけになった事件だ(番組への批判については例えばこちらなどを参照)。今回の「完全版」にも、「ろんぶ〜ん」に出演していた認知心理学者の厳島行雄氏が登場する。管見の限りでは、「ろんぶ〜ん」批判のほとんどは厳島氏の研究にではなく番組のとりあげ方に向けられていたようだが。
自白していれば執行猶予がついたり、略式起訴ですんだり、さらに被害者と示談が成立すれば起訴猶予になることが多い……といった事件における“隠れ冤罪”はかなり多い、というのは冤罪事件に関心を持つ法律家やジャーナリストがしばしば指摘することではある。これを踏まえてコメントしておきたいのは、仮に痴漢事件で冤罪が少なからずあるとすれば、その背景の一つは痴漢がこの社会において“軽微な犯罪”だとされていることにあるのではないか、ということだ。警察も“軽微な犯罪”だと思うからこそ客観的な証拠についてはおざなりな捜査ですませて自白をとって片付けようとするし、検察や裁判所の判断も“軽微な犯罪”だという前提のものになるから「執行猶予」「略式起訴」「起訴猶予」といった利益が虚偽自白の動機になりうるわけだ。ミソジニー混じりで“痴漢冤罪”をとりあげるのは、冤罪防止にはまったく役立たないだろう。