『被差別部落に生まれて』

火曜日

-黒川みどり『被差別部落に生まれて 石川一雄が語る狭山事件』、岩波書店、2023年5月

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近代部落史の専門家による「狭山事件」論の試み。とはいっても本書ではあらためて狭山事件が冤罪であることを証明しようとする努力がなされているわけではない。石川一雄さんへの聞き取り(ただし聞き取りにあたっては、古くからの支援者で部落解放同盟埼玉県連合会執行委員長の片岡明幸氏らが協力した旨が記されている)と闘争運動の中で石川さん本人が綴った言葉をもとに、冤罪がつくられてゆく過程、支援運動が広がってゆく過程、仮出獄後の生活などが石川さんの生活史とともに明らかにされる。これは部落差別こそが狭山事件の本質であるとする著者の認識の反映である。さらに著者は、狭山事件闘争が部落解放闘争として闘われてきたがゆえに狭山事件への関心や理解が妨げられた面があることを指摘し、そうした無関心や無理解の克服は“私たち”の課題であることを説く。「英雄視」されることをどう受け止めようとするかについての石川さんの語りも興味深い。

とりわけこれまで部落差別にはあまり関心がなかったという人々にもひろく読まれてほしい。