NHKスペシャル「松本清張と帝銀事件」

土曜日

NHKスペシャルの「未解決事件」シリーズ第9弾のうち12月29日放送の第2部ドキュメンタリー「74年目の“真実”」をみました。

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重要な資料として紹介されている「甲斐捜査手記」は明治大学平和教育登戸研究所資料館が2018年に開催した「帝銀事件と登戸研究所」展でもとりあげられていたものですし、山田朗さんの『帝銀事件と日本の秘密戦』を読んでいる者としてはさほど目新しい情報はありませんでした。テキストマイニングをつかって供述分析にとりくんでいる立命館大学の稲葉光行氏のとりくみについてはこの番組で初めて知りましたが。

他方、平沢氏は無実であるというメッセージはかなり強く打ち出しており、単に「真相は謎」ではなく「帝銀事件は冤罪」という側にコミットした番組になっていたと感じました。この点はかなり踏み込んでいたと思います。

それだけに残念なのは次の部分です。登戸研究所の元所員北沢隆次氏の“陸軍省憲兵隊、参謀本部のいずれかから青酸ニトリールを2度取りに来た”という趣旨の証言を紹介した部分です。受け取りに来た軍人らが「連中〔=占領軍〕が来たら僕らどうなるか分からないんだから」と語っていたという証言に続けて、「敗戦直後、戦地の悪夢から抜け出せない者や、明日生きる途を見失う者が数多くいた」というナレーションがはいったのです。しかし進駐軍の到着を待っている時期に陸軍省参謀本部憲兵隊の面々がなによりも心配していたのは戦犯追及であり、「僕らどうなるか分からない」がそのことを意味しているのは明らかです。まだ復員も始まっていない時期に「戦地の悪夢から抜け出せない者」が自決用の毒物を求めたなどと示唆するのは的外れにも程があります。731部隊に明示的に言及した番組なのに、なぜここで戦犯追及へのおそれをごまかす必要があったのか、理解に苦しみます。