「畳の上の警告」


以前にはてブでも言及したことのある件。

110人と275人。09年度までの27年間に部活動や授業の柔道でそれぞれ死亡した生徒、障害が残った生徒の数である(中・高校生)。中学校の部活動での死亡率は陸上・バスケット・サッカー・野球・バレーボール・剣道がいずれも10万人あたり0.5人に満たないのに対し柔道では2人を越えている。どちらも上記番組で紹介されていたデータ。

「2009年度までの27年間に中学・高校で計110人の生徒が柔道の部活動で死亡している」そんな衝撃的なデータが、大学の准教授によってもたらされた。柔道人口が日本の3倍というフランスでも、子供が死亡に至った報告はないという。国家資格を有する指導者が、医療の知識も持って指導にあたっているのだ。文部科学省は来年度から中学校で柔道、剣道、相撲の武道とダンスの中から1種目を選択する「必修化」をスタートさせるが、不安を訴える教師は多い。番組では、各地に被害者を訪ね、柔道必修化を前に事故の実態を明らかにし、畳の上での安全性への取り組みを訴える。

同じく番組中では、死亡例の半数近くで急性硬膜下血腫が発祥していたことが紹介されていたが、全日本柔道連盟医科学委員会の副委員長がインタビューに答え、頸椎損傷などと違って頭の怪我については情報が入っていなかった、と危険性に対する認識が遅れていたことを認めている。
12年度からの必修化では個々の生徒にではなく中学校にまかされており、09年の調査ではおよそ7割の中学校が柔道を選ぶとしている、という。取材に対して文科省の官僚は「学習指導要領で技のレベルを控えている」と言うが、必修化により柔道の経験がない教師が指導にあたる事態も増えることになる。柔道関係者でさえ充分に危険性を認識できていなかったにもかかわらず、である。
そもそも、必修化を決めるにあたって過去の事故の調査がなされていなかった(これほどの死亡例があるとは知られていなかった)というのだから、なにをかいわんやである。生徒の安全も、現場で指導にあたる教員の苦労もろくに考えず、オリエンタリズム混じりのイデオロギーとスポーツ利権の野合が生んだ事態と評するしかない。予想に違わず、中学校での武道(およびダンス)の必修化は安倍内閣の“成果”である。