特捜の捜査について

上記記事は特捜の捜査がとりわけ異常であるというニュアンスを滲み出させているが、志布志事件を思い起こすまでもなく、被疑者や参考人のこのような取り扱いは(頻度について具体的なデータがあるわけではないが)決して特異なこととは言えないのではないか。

上記エントリで紹介した記事によれば「本部長や署長の承認なしの午後10時以降や1日8時間超の取り調べ」が3件把握されたとある(2008年9月から翌3月まで、全国の警察で)。警察庁が禁止行為のすべての事例を把握しているとは限らないし、「本部長や署長の承認」があった場合にはそもそも「禁止行為」ではないということになる。しかも警察の認識では「取り調べを担当した警察官は、「それほど悪質ではない」として懲戒処分ではなく口頭で注意を受けた」というくらいだから、多少マシな事例ならどれくらいあるか知れたものではない。
むろん、事件に関する知識があるとも思えない関係者を10時間も事実上拘束し、外部との連絡すら許さないことをよしとするのではない。だが、事件が社会的関心を集め、かつ小沢一郎を筆頭に関係者が平凡な市民よりも自らの人権を守る手段を持っているからこそこういうことも表に出てくるのであって、誰にも知られずに違法な、あるいは違法すれすれな取り調べをうけている人間がいることも想起せねばならないだろう。
ロッキード事件の公判中、『諸君!』を中心とする右派論壇が田中擁護論、裁判(検察)批判を展開したが、田中の「別件逮捕」を問題にする論者が田中より遥かに厳しい取り調べをうけた*1丸紅側被告の人権についてなどなにも語らなかったことを思い出そう。
他方でこんなニュースもある。

この事件では事後に証拠隠滅や口裏合わせを目論んだと評しうるようなこともあったようだから、保釈が認められないとして(実際、認められないだろう)も正当と言えるだろう。だからこの保釈申請は「通る見込みのないことをわざわざやっている」という意味ではなるほど「非常識」ではあるだろうが、取り調べのための身柄拘束はあくまで犯罪に対する罰ではない。にもかかわらず刑法学者を引っ張り出して「非常識」「「世間には『まだ事件から逃げている』と映る」「担当弁護士は裁判にマイナスの請求だと分かっているはず」などと報じる意味があるのだろうか。仮に保釈申請をしたら「裁判にマイナス」なのだとしたら、拘置所と刑務所の違いなんてなくなってしまうのではないか。

*1:田中は外為法違反容疑で逮捕されたが、その後収賄容疑で再逮捕されることもなく、自白調書も取られずに保釈されている。