元裁判官の証言
7月4日(土)の朝日新聞朝刊(大阪本社)に掲載された、元裁判官(現弁護士)安原浩氏のインタビューより。題して「「自白」依存 背筋寒くなった」。
私は裁判所に勤務した40年間のうち、35年を刑事裁判官としてすごしました。その経験から言うと、今の刑事裁判で最大の問題点は、裁判官の多くが「有罪慣れ」していることだと思います。
(中略)
5年ほど前、連続窃盗事件で起訴された男性被告の審理を担当した時のことです。公判で被告は大半の事件について関与を認めたものの、一部は「やっていない」と否認しました。それでも自白調書があったため、私は彼がうそをついていると考えました。
ところが、裁判で彼の話を聞いていくと違うことがわかりました。刑事が彼に対し、全く関係のない事件まで「やったことにしてほしい」と頼みこんでいたという供述や、起訴されている事件の一部で真犯人がすでに捕まっていたという記録も出てきました。一部無罪を言い渡しましたが、「私もいつのまにか調書に依存していたのか」と背筋が寒くなりました。
(後略)
冤罪といえばわたしたちは足利事件のようなケースをまず思い浮かべるけれども、数の上ではここで紹介されているような事例が見過ごされているものが多いのではないだろうか。警察の方は検挙実績をつくることができ、(こういうケースではたいてい常習犯だったりする)被疑者の方も大して量刑に違いがでないなら警察に恩を売っとくのも悪くない、と思う・・・。しかしその背後で真犯人は逃げおおせているわけだ。