「ルールを守れ」といえば…

asahi.com 2009年3月17日 「勾留16年、判決まだ 心神喪失の強殺被告、再犯を懸念」(魚拓1ページ目2ページ目

 強盗殺人罪で92年に逮捕、起訴された千葉県内の男性被告(48)が、刑事裁判中に統合失調症による「心神喪失」と診断されながら、十分な治療を受けることなく現在まで拘置施設に勾留(こうりゅう)されていることが朝日新聞の調べで分かった。被告は、一度も裁かれることなく16年以上も勾留され続けていることになる。
(中略)
 一般的に、被告が病気などの理由で公判が停止し、逃亡や証拠隠滅のおそれが無い場合は、病状回復を図るため、裁判所が検察側の意見を聞きつつ勾留を停止し入院させるなどの手続きを検討する。


 被告の弁護人は95年6月に「勾留執行の停止」を申し立てたが認められなかった。理由について、弁護人は「被告は攻撃性が強く、(社会に出れば)他害のおそれもある。もし同じような事件を起こしたら、社会の非難は避けられない。裁判所はそう考えたのだろう」と語る。
(中略)
 被告は現在、独房で生活し月1回程度の診察と注射による治療のみがなされているが、病状は回復しておらず、妄想や幻覚の症状も強いという。刑務所に勤務経験のある精神科医は「統合失調症患者にとって他者との接触は大切な治療でもある。医者とも接触機会が少ない独房生活では回復が期待できない」と話す。一方、弁護人は「勾留が続くことは決していいとは思わないが、再犯の心配は私にもないわけではない。本人との意思疎通が難しく、家族も連絡が取れない状態では判断が難しい」と語った。

記事の末尾には中島宏鹿児島大学法科大学院准教授(刑事訴訟法)の次のようなコメントが掲載されている。

これほど長期の勾留を伴う公判停止は珍しく、本来、法律は想定していない。もし予防拘禁的に勾留を使っているなら、制度の趣旨に反すると言わざるを得ない。長期勾留による心身への影響も踏まえて回復可能性を検討すべき段階ではないか。回復の望みが薄ければ、検察による公訴取り消しや裁判所による公判手続きの打ち切りが模索されていいはずだ。

あくまで裁判で有罪判決を下すことにこだわるのであればなおさら、まともな治療を受けられる環境に移すべきではなかったか。措置入院の問題はここでは論じないことにするが、公判が開かれぬまま事実上有罪判決を受けたに等しい状態が16年以上も続いている状態が「ルール」にかなっていると言えようか? しかし「ルールは守れ」厨がこういう事例にどう反応するか、だいたい見当がつくよね。


もっともこの件については、当事者もまるで問題意識を持っていないわけではないらしいのが救いか。ウェッブ版では省略されているが、大阪本社版の17日朝刊によれば06年11月に捜査関係者が被告を訪問している他、08年3月には千葉地裁松戸支部の呼びかけで裁判官、検察官、弁護人がそろって被告に面談しているとのこと。裁判官や検事を非難するのは簡単だが、彼らが怖れているのが「再犯の際の国民からの非難」なのだとすれば、この社会こそが(間接的に)被告人を不当に勾留していることになる。