方言と虚偽自白

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火曜日

昨年の暮、興味深い記事をみかけました。

-朝日新聞DIGITAL 2020年12月22日 「どや」「言えや」自白を導く、方言の迫力 冤罪も生むarchive

方言は真実の自白を引き出すときもあれば、人権を侵害することもある「両刃の剣」――。岡山理科大准教授の札埜(ふだの)和男さんがこんな研究をまとめた。取り調べで方言は親しみを感じさせる道具として使われる一方、無実の人にうその自白をさせてしまうおそれもある。「研究が冤罪(えんざい)をなくす一端になれば」とねがう。

 「言いたくないことを言わされる」のは虚偽自白の場合も、多くの真正な自白の場合も同じです。ですから、真犯人に自白させるのに有効なテクニックが虚偽自白をも引き出す恐れがある、というのは考えてみれば当たり前でしょう。

記事では元検察官の弁護士が「調書でマニアックな方言が出てきたら、自発的にしゃべっていることになる」とコメントしていますが、冤罪被害者が「真犯人になったつもりで」供述しているときには、取調官の胸の内を推理しつつ“自分の言葉”で喋っているわけですから、安易に「自発性」を認めるのは危険でしょう。

興味深かったのは、この研究のきっかけです。

  研究のきっかけは3年前、兵庫県西宮市の施設で園児が水死体で見つかった「甲山(かぶとやま)事件」の冤罪被害者、山田悦子さんとの電話だった。山田さんは関西弁をまじえた取り調べをうけた経験を「落とすときは関西弁。虚偽自白、冤罪は方言のやりとりから生まれる」とふりかえった。札埜さんは「方言の使い方によってはマイナス面もあるのではないか」と考えたという。

 虚偽自白研究において被疑者に「親身になってくれている」と思わせるテクニックにはしばしば言及がありますが、「方言」に着目した例はちょっと記憶にありません。入手できたらまた取り上げてみたいと思います。

一刻も早く原告勝訴判決を

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火曜日

-朝日新聞DIGITAL 2020年12月15日 「再審で無罪、命の残りは2カ月 「真実に誠実」語る決意」(アーカイブ

今年、一番衝撃を受けたニュースの一つになるでしょう。

 告げられた命の残りは約2カ月、最期まで声を上げる――。1967年に茨城県利根町布川(ふかわ)で起きた強盗殺人事件で有罪となり、44年後に再審で無罪になった桜井昌司さん(73)が、末期がんを患いながら「冤罪(えんざい)のない社会に」と伝え続けている。15日の国家賠償請求訴訟の控訴審では、病状とともに、違法捜査の検証や証拠の全面開示の必要性を裁判官に訴える。

記事の結び(有料部分)では「判決言い渡しは、来年になるとみられる」とされています。こちらの記事によれば6月が予定されているそうです。一審は桜井さんの勝訴判決で、逆転敗訴という可能性は低いとは思いますが、無事判決の日を迎えられるよう祈るばかりです。

袴田事件再審請求、高裁へ差し戻し

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水曜日

 袴田さんの年齢を考えれば再審開始の決定を下すべきでしたが、最悪の事態は免れましたね。

ヤメ検弁護士の詭弁

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月曜日

-朝日新聞DIGITAL 2020年12月12日 

digital.asahi.com

archive

袴田さんの近況を伝えるとともに、再審開始をめぐり静岡地裁と東京高裁で判断が分かれたポイントを詳しく解説しようとした、ありがたい企画です。ただ、識者コメントを“両論併記”にする必要があったのか、その点は疑問です。東京高裁擁護論のレベルがあまりに低すぎるからです。

地裁決定と高裁決定を比較した場合、地裁決定は事実を総合的にみるという観点が欠けているのではないかと思う。新しいDNA型鑑定の結果にとらわれ、捜査、公判の流れを全体的、総合的にみる観点に欠けていた。

 いやいや「総合的」にみればみるほど無実は明らかでしょう。「5点の着衣」だけでなく「履けないズボンのタグ」「売っていなかったクリ小刀」など、検察の立証のほころびはいくつもあります。

高井氏は犯行時の着衣に関する立証について、次のように主張します。

 これについて地裁決定は、捜査関係者による捏造の疑いがあるなどと述べているが、見当違いもはなはだしい。検察が従前の主張に反する証拠を捏造する理由がどこにあるのか。

(中略)

 公判の途中で「5点の衣類」が血染めの状態で発見されたという報道も強く印象に残っている。「検察は一体、どうするんだろう」と率直に思った。つまり、これまでの主張とまったく異なる物証がでてきたので検察は苦しい立場に立たされるだろう、事件はどうなるのか、立証できなくなるのでは、などと考えたわけだ。

 しかし高井氏はここで重要な事実を隠しています。パジャマに付着していた血液が微量で、これを犯行時に着用していたとする検察側の主張が説得力を欠いていた、という事実です。もう少し「総合的」にものを見てもらいたいものです。

 

 

 

「逃げる司法」ネット配信

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日曜日

本日13時からMBS制作のドキュメンタリー「逃げる司法」がネット配信されます。

www.youtube.com

www.mbs.jp

再審、裁判のやり直しが行われた2つの事件。1990年に女児が誘拐され殺害された「足利事件」と2005年に再審開始が言い渡された「布川事件」。どちらも検察が冤罪をでっち上げ、裁判所がこれを見抜けなかったために、無期懲役を言い渡された事件だ。番組では、2つの事件に注目し、布川事件では「無実の証拠を隠し続ける検察」の観点から、足利事件では「冤罪を見抜けない裁判所」の観点から日本の冤罪の構造を解き明かす。

 

 

 

「否認」の深刻さ

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木曜日

 不正選挙陰謀論は自己論駁的だ。民主党員は悪魔のように狡猾で、バイデンに有利なように選挙を操作するため複数の州と何百何千もの郡で歩調を合わせた。しかしとても愚かで無能なので上院で多数派になるよう操作するのを忘れ、下院で議席を失いさえした。証明終わり。

実際にこれを陰謀論者につきつければ、彼らは「陰謀が露見しないよう、勝ちすぎるのを避けたのだ」と返すことができるので、「論駁」は達成されないだろう(もちろん、これでハッと目が覚めるひとがいてもおかしくない)。たとえば反ユダヤ主義ユダヤ人を一方では「狡猾に世界を裏から支配するやつら」として、他方では「劣等民族」として描くことを、マイケル・シャーマ−ならよく知っているはずである。

アメリカ大統領選挙についての報道では「分断」がお約束のキーワードになっていた。しかし少なくとも同程度に深刻なのは、アメリカに広がる(ついでに日本にも波及してきている)「否認」だろう。

thehill.com

 COVID-19のために死の床についていてなおCOVID-19を否認する人々。この否認は明らかに「分断」の背景にあり、「分断」を加速している要因だ。

安倍・菅政権のCOVID-19対策はまったくロクでもなかったが、トランプやボルソナーロなどと違ってCOVID-19の脅威を否認する右派言論人の主張をおおっぴらに裏書きしたりしなかった点だけはマシだった。彼らの政策はCOVID-19の過小評価に引きづられてはいても、たとえば小川榮太郎の主張を支持したりはしなかった。少なくともアメリカと比べればCOVID-19否認派が周辺的な存在にとどまっている一因はそのおかげだろう。