「フレンチに遅れる」……

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水曜日

今年の4月に池袋で起きた乗用車暴走・死傷事件について被疑者が「予約していたフレンチに遅れそうだった」と供述している……という報道が出てきましたね。

この事件、被疑者のプロフィールゆえにさまざまな憶測を呼んできました。ただ今回、世論の反感を掻き立てずにはいないであろうこのような供述がマスコミにリークされたことを考えると、「警察はなにがなんでも被疑者をお咎め無しですませようとしている」ということはないと考えるべきなんでしょう。

まあ、「桜を見る会」のスキャンダルから社会の関心を逸らせるためには「上級国民」でもスケープゴートにするんだ! と主張するひとは現れるのかもしれませんが。

「裁かれる正義」

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水曜日

今週は冤罪に関する番組が二つ、地上波テレビで放送されました。一つは NHK 総合「逆転人生」の11月11日放送回。こちらはまだ途中までしか見ていないのでまた改めて。もう一つはこちらです。

-関西テレビ 2019年11月11日深夜(12日未明) ザ・ドキュメント「裁かれる正義 検証・揺さぶられっ子症候群

この問題については関西テレビは昨年もとりあげています。

-関西テレビ 2018年11月8日 ザ・ドキュメント「ふたつの正義 検証・揺さぶられっ子症候群

ディレクター、プロデューサーも同じ。サブタイトルも同じ。取材対象者も大幅に重なっていますが、メインタイトルが「ふたつの正義」から「裁かれる正義」に変わっています。2018年の番組でもとりあげられていた大阪の事件の控訴審で逆転無罪判決が出た(放送直前に無罪が確定)ことと呼応したかたちになります。

内容的にも、1年前のものに比べれば今回のものは「揺さぶられっ子症候群」の主張に対してはっきりと厳しい内容になっていました。刑事裁判で有罪の根拠として用いられてきた主張ですから、このように批判的な検証の対象となるのは当然のことと言えましょう。

ただ番組の中で、被告人のひととなりに触れて“こんなひとが虐待者のはずがない”とする弁護士の主張がかなり強調されていたという印象を受けたことには、ちょっと引っかかりを覚えました。今回逆転無罪が確定した事件の場合、亡くなった女児の母親(被告人の次女)を含む家族が被告人の無実を一貫して信じたことが救いにはなっており、それが被告人のひととなりによることだったろう……というのはわかります。しかし番組がそのような「ステレオタイプ」にもとづく判断を誘発するような編集を行ってしまっては、かえって丁寧な取材の価値を損なうのではないでしょうか。

「えん罪漂流記」放送からまもなく……(追記あり)

 

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金曜日

さる10月27日に滋賀湖東記念病院事件をとりあげた「えん罪漂流記〜元看護助手が失った16年〜」が放送されました。放送の直前に検察が再審での有罪立証を断念する方針との報道があり、急遽再編集したことが伺える内容でした。

ところが放送からおよそ10日たった昨日、また新たなニュースが。

-京都新聞 患者殺人で無罪示唆の証拠あった「たんで死亡可能性」 元看護助手の再審向け開示

「たん詰まり」による死亡の可能性を指摘した医師の所見が記された捜査報告書が存在しており、それが今回始めて開示されたというニュースです。

もちろんそのような所見が示されたからといって警察としては他の可能性も念頭において捜査を尽くすべきであり、逮捕前に虚偽自白があったことで捜査が誤った方向性に向かってしまったことについては、やむを得ない側面もあったでしょう。番組で虚偽自白の背景としてとりあげられていた発達障害も、発達障害者支援法の制定が2005年であることを考えれば、取り調べにあたって配慮がなかったことが著しく不当であるとは言えないでしょう。しかしこのような捜査報告書が最初から裁判で証拠として開示されていれば、変遷の激しかった自白の信用性の評価にも影響があったことは十分に考えられます。やはり検察が有罪立証に不利な証拠を隠すことを許している刑事訴訟法のあり方(注:追記参照)が問われねばならないでしょう。

また、再審請求の過程で弁護側は「自然死」の可能性を主張してきたわけですが、この捜査報告書は事故死の可能性を示しているわけです。とすると、警察の当初の見込みとは違うかたちではありますが、業務上過失致死が成立する可能性があった、ということになります。これについては、事件の当夜、2時間毎にと指示されていたたん吸引の記録が死亡発覚まで5時間半欠けていたことが、番組でも井戸弁護士によって指摘されていました。もちろん、これはあくまで可能性だけの話で、実際に事故死だったのか、事故死だったとして罰するに値するような過失があったのかどうか……をこれから明らかにすることは非常に困難でしょうが(再審無罪の判決を下すうえで法的に必要なことでもありませんし)。この事件には限らないことですが、冤罪を生む捜査は同時に真相の解明を阻むということですね。

 

追記

8カンテレ(Yahoo! JAPAN ニュース) 11月9日 「【解説】重要証拠を「隠ぺい」か?滋賀県警は西山さんの「12年の服役」に報いる「説明責任」を果たせ

検察の証拠隠しとして書いてしまっていましたが、この記事によれば本件は警察が収集した証拠を検察にすら送っていなかった、というケースとのことです。

ナメコでも……

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日曜日

-山形新聞 2019年11月03日 「天然ナメコ、山奥でつやつや 真室川で採取始まる

この記事、次のように結ばれております。

 同町釜渕の山中では、斜面のナラの木に、小ぶりながらも丸々としたナメコがびっしり。よくキノコを採り行くという近くの会社員姉崎進さん(59)は「苦労して収穫した分、おいしさは格別。みそ汁にするとおいしい」と話していた。

 地方紙に載った「ちょっといい話」記事。しかしその前段には……「ナラ枯れの影響で採れる量も年々減少している」「今季は特に少なく、昨年の10分の1ほどだという」とあります。原因が「ナラ枯れ」ということは問題は構造的なもので、たまたま不出来だという話じゃありません。手を打たなければそれこそこの地域では(天然種が)絶滅することもありうるわけです。「おいしさは格別」で結んでよいニュースじゃないわけですが、この国のマスメディアは生態系の危機についても、食える生物が絡んでいると「お財布」か「味」の問題にしてしまいますから。度し難いです。

結局、有罪立証放棄……

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金曜日

-京都新聞 2019年10月24日 「殺人罪で12年服役の元看護助手、再審無罪へ 検察が有罪立証を断念、滋賀・湖東病院事件

弁護団によると、書面では、確定判決で有罪の証拠になった「故意にチューブを外した」などとする西山さんの自白調書について、再審公判で証拠として引き継ぐかは裁判所に一任する、とした。弁護団の証拠請求にも可能な限り同意する意向を示し、本年度内の再審公判開始や即日結審を希望しているという。

(下線は引用者)

 弁護側は自白の誘導を問題視していますから、検察側のねらいは引用中の下線部にあると見てよいでしょう。弁護側の主張に対して争わないことで再審をさっさと終わらせ、捜査の問題が裁判で議論になるのを避ける、と。

事実上無罪が決まったからといって、すなおには喜べない事態です。

 

 

大崎事件、第4次再審請求を目指す方針

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水曜日

10月1日のエントリで紹介した大崎事件の支援集会の前日14日に、シンポジウムの登壇者らが原口アヤ子さんを激励に訪れた、というニュースです。

-MBC NEWS 2019年10月14日 「大崎事件から40年 原口さんを支援者が激励」(archive.is

-日テレNEWS24 2019年10月14日「大崎事件 支援者が原口アヤ子さんを激励」(archive.is

日テレのニュースの方では原口さんの長女もコメントしておられます。

弁護団事務局長、鴨志田弁護士のツイート。

 

そして15日の集会では、第4次再審請求を目指す方針が明らかにされたとのことです。

-JIJI.COM 2019年10月15日 「年内にも第4次再審請求=大崎事件、40年集会で方針-鹿児島

年内、遅くとも年度内には……とのことですが、限られた時間で最高裁の決定に対抗するどのようなロジックを見出すのか、弁護団の朝鮮に注目したいと思います。

湖東記念病院事件再審で検察が有罪立証放棄?

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火曜日

 

-朝日新聞 DIGITAL 2019年9月30日 検察側が有罪主張を撤回か 滋賀・患者死亡の再審協議archive.is

 滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年、呼吸器を外して入院患者を殺害したとして、殺人罪で服役した元看護助手の西山美香さん(39)のやり直し裁判(再審)に向けた協議が30日、大津地裁であり、検察側が有罪主張の根拠とする新証拠を出さない方針を示した。協議後、西山さんの弁護団が明らかにした。

指宿信(いぶすきまこと)・成城大教授(刑事訴訟法)の話

 検察側が再審公判で新たな証拠を出さないのは、有罪を立証する自信がなく、あきらめたように見える。検察側が有罪主張を維持することも理論上は可能だが、確定した再審開始決定の拘束力は、再審公判での裁判所の判断にも影響が及ぶと考えるのが自然だ。無罪になる公算が大きくなったといえる。

 再審開始の決定を導いた弁護団の主張に反論するための新たな材料を出さないということですから、識者コメントの通りなのでしょうが、そうだとすればなぜ再審請求審で特別抗告まで行なったのか、松橋事件と同じような問題を指摘することができます。